「ここの学校は滑り止めだったんです」入学式の一言で始まる“偏差値マウンティング” 中学受験後に直面した“保護者ヒエラルキー”の現実

松波 穂乃圭 松波 穂乃圭

中学受験は、親子で長期間にわたる努力と忍耐が求められる試練です。合格通知を受け取ったその日から、ようやく平穏な日常が戻ってくる…埼玉県在住のWさん(40代)は、そう思っていました。しかし、入学後に待っていたのは、保護者同士の見えない“マウンティング合戦”でした。第一志望の合格に喜び、晴れやかな気持ちで迎えた入学式。しかし、そこでWさんは、思いもよらない保護者の一言に出会います。

「えっ?ここに初めて来たの?」

中学受験を終えた春、Wさんと子どもはずっと憧れていた学校に見事合格し、笑顔で入学式を迎えました。校門で記念写真を撮り、まだぶかぶかで着慣れない制服姿のわが子に成長を感じながら教室に入ると、同じクラスの保護者の一人がにこやかに話しかけてきました。

「男の子の親御さんですか?うちも男の子です。よろしくお願いします」

新しい環境での出会いに、Wさんも自然と笑顔になりました。ところが、Tさんという保護者の方は次の瞬間、さらりとこう言いました。

「今日、初めて来たんですよ。この学校。へえ、こんな教室なんだ〜」

一瞬、耳を疑いました。Wさんと息子さんは、小学4年生のときからこの学校の説明会や文化祭、体育祭に親子で何度も足を運んでおり、それは予想外の発言でした。さらにTさんはこう続けました。

「うち、ここの学校は滑り止めだったんです。A中とB中、落ちちゃって。ほんと残念。仕方なくって感じですね。でもC中には合格だったんですけどね」

A中とB中といえば、誰もが知る最難関中学です。TさんはWさんの返答を待たずに問いかけました。

「Wさんは第一志望だったんですか? へえ〜」

声には嫌味があるわけではありませんでしたが、Wさんはなぜか「格付け」されたような気持ちになりました。入学の喜びに水を差されたようで、その場を早く離れたくなったのを覚えています。

自己紹介の場が偏差値カーストになる

別の日、初めての保護者会がありました。クラス内でグループになって懇親の時間が設けられ、保護者の自己紹介が行われました。名前、部活、最寄り駅、子どもたちの様子など、他愛のない話題が続く中、ある保護者の発言にWさんは驚きました。

「うちは大手塾Sの上のクラスにいましたけど、A中も確実といわれていたの…。でも落ちてしまって。ここの学校は第三希望だったんです。ですけど、楽しくやってくれれば、って思ってます」

この一言に、場の空気が少し変わったのを感じました。「上から目線」とまでは言えませんが、「うちの子はもっと上を目指していた」という意識がにじみ出ているように感じました。いつのまにか、自己紹介の場が子どもの学力をアピールする「偏差値カーストの確認会」のようになっていたことに、Wさんは居心地の悪さを覚えました。

「その塾で受かったの?珍しいですね」

保護者会の帰り道、子どもの部活を見学しているときに偶然出会った別の保護者の方と立ち話をしました。出身塾の話題になり、「我が家はZ塾でした」と伝えると、その方は少し驚いた表情を見せました。

「えっ、Z塾? そこからこの学校に受かるって、ちょっと珍しいですね。だってZ塾って、そこまで上位校向きじゃないでしょ?」

悪意は感じませんでしたが、まるで「あなたのお子さん、奇跡的に受かったのね」と言われているような気持ちになりました。

Z塾でもWさんの子どもは努力を重ねてきました。そうした努力の成果を軽んじられたようで、胸に小さな棘が残るような出来事でした。

なぜか始まる通学時間マウンティング

通学に関する話題も、頻繁に耳にするようになりました。ある母親はこう話していました。

「うちは同じ区内から片道30分以内なの。子どものことを考えたら、やっぱり学校は近くないと。疲れちゃうし、時間をかけてまで通わせるのは、意味ないわよね」

Wさんの自宅からは通学に1時間強かかります。1時間程度なら許容範囲内だと思っていたため、Wさんは思わず黙ってしまいました。通学距離は家庭の事情によるものであり、子どもの意欲や希望を尊重して志望校を検討した結果でした。

それにもかかわらず、「遠距離通学=無理をしている」「地元に良い学校がなかったのかしら?」といったニュアンスや、さらには「学校の近くに住めない=経済的な余裕がない家庭」と判断されかねないような印象まで感じられ、Wさんは戸惑いを覚えました。

マウンティングよりも、リスペクトを

親として本当に大切なのは、「どの学校に入ったか」ではなく、「子どもがどんな学校生活を送るか」に寄り添うことではないかと、Wさんは感じています。受験が終わったからこそ、今度は子どもの未来を温かく支える“環境づくり”に目を向けていきたいものです。偏差値では測れない人間関係の大切さを、私たち親こそ、学んでいかなければならないのかもしれません。

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