眼球を失ったり委縮してしまった人が装用する義眼。瞳と白目を模したものが一般的だが、今SNS上で大きな注目を集めているのはなんとオレンジ色に光る義眼だ。
「片目失明者です。見えない代わりに光らせました」と件の義眼を紹介したのは義眼アーティストのRibさん(@Right_rib)。
幼少時に右目の視力を失い、「これまでにない美しい義眼を着けたい」という思いから義眼技法を学び、アーティスト活動をするに至ったというRibさん。障害者情報バラエティー「バリバラ」(NHK)出演を通して注目を集め、これまで数々のアートコンテストでも受賞経験のある彼女がこの光る義眼を制作した経緯についてお話を聞いた。
ーー義眼のアート作品を手掛けるようになったのは?
Rib:私は子どものころから目という目立つ部位に障害があり、その原因となった出来事も、あまり思い出したくないような環境にありました。その環境から脱出後も、見た目を理由に「気持ち悪い」と言われたり、容姿を理由にアルバイトの採用を断られたりするなど、否定や偏見の中で生きる時間が続きました。私にとって、視力をもたない眼球と義眼は「失ったもの」ではなく、そうした時間を生き抜いてきた身体の痕跡であり、静かな誇りでもあります。
しかしその誇りすら、「見る人を不快にさせるので隠すべき」「義眼は自然な見た目であるべき」といった“正しさ”によって、選択肢の幅が狭められてしまうことがあります。その現状に違和感を覚えたことが、私が義眼制作を始めた理由のひとつです。
ーー当事者として「普通であるべき」という同調圧力を感じたのですね。
Rib:「ならいっそのこと、宝石のように美しい目を入れてやろう」という思いのもと、尊敬する2人の義眼技師の方々に助言や指導をいただきながら、独学で義眼制作の技術を学び、長い時間をかけて習得していきました。
義眼を“隠すもの”ではなく、“生きてきた痕跡として見せるもの”として再定義することは、私自身の尊厳を取り戻す行為であり、同時にそれを社会に向けて差し出すことで、固定観念や「選べない状況」に問いを投げかける試みでもあります。
ーー試みはアートコンテストでも評価されています。
Rib:昨年、この投稿の関連作品がリンツ(オーストリア)で開催された世界最大のメディア・アートの祭典「Prix Ars Electronica 2024」にて優秀賞(準グランプリ)を受賞しました。
受賞作「If You Have Starry Skies in Your Eyes(その目に星空を宿したのなら)」では発光する義眼を自ら制作・装用し、「他人の目線ではなく、自分のまなざしを選ぶ」という視点と選択肢を提示しました。
もちろん、自然な見た目を選ぶことを否定するつもりはまったくありません。それもまた、尊重されるべき大切な選択肢のひとつです。大切なのは、どちらかを選ばされることではなく、自分自身の身体と生き方に即した“まなざしの形”を、自らの意思で選べるという自由だと、私は信じています。
ーー光る義眼はどのような仕組みですか?
Rib:医療グレードのPMMA製のシェルにLEDを内蔵し、光を発するように設計されています。電子部品はすべてシェル内に包み込み、装用者の体に害がないよう仕上げています。繊細な部位に装着するものだからこそ安全性に配慮する必要があり、何度も試作を重ねました。
ーー数々のポジティブな反響が寄せられました。
Rib:発光する義眼の投稿が注目を集めるのは、今回で2回目になります。「見えない代わりに光らせました」という言葉は、私が何度も使ってきたフレーズですが、そのたびに、まったく異なる形で受け取られることに驚かされます。今回の投稿では、よりリアルに“身体の一部として光る義眼”が届いたのか、単なる技術的関心ではなく、「在り方」や「まなざしの自由」に共感してくださる声が多かったように感じました。
どんなふうに見えるかではなく、どう生きるか。その選択に義眼という媒体が関わること。そしてそれを作品として社会に差し出すことで「こうでなければならない」という視線や価値観に、小さくても確かな揺らぎを与えることができたなら、それは私にとってとても意味のあることです。
ーー今後の目標は?
Rib:義眼を用いた芸術表現が本分ですが、義眼ユーザーとしてのまなざしや日常を綴ったエッセイ本の出版も将来的な目標のひとつです。ご関心をお持ちいただける出版社さまがいらっしゃいましたら、ご連絡をお待ちしております。また展示や講演などについても、キュレーター、ギャラリスト、文化事業関係者の方など、具体的な企画意図をお持ちの方がいればご相談させていただきたいと思っております。
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課されたハンディを個性に変え芸術にまで昇華しようというRibさん。彼女の挑戦の行方を楽しみにしたい。
Ribさん関連情報
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