片手が不自由な人や握力が弱った高齢者でも、皿洗いができるようサポートする道具が、Xで話題になっている。こうした「自助具」の数々を3Dプリンターで作り、インターネット上で販売している作業療法士の川口晋平さん(44)を取材した。
話題になっている自助具は、2本の棒の先端に細長いスポンジがついたもの。シンクに吸盤で固定して使う。棒がしっかりと固定されているため、食器をスポンジに押し付けたり二つのスポンジで挟んだりすることで、片手であっても力を加えて洗うことができる。価格は3980円。
この自助具が紹介されたポストには、6万件以上の「いいね」が集まり、
〈素晴らしい工夫〉
〈こういう自助具がもっと普及してほしい〉
〈2年前に脳梗塞で入院した僕としては身に染みてありがたい商品〉
〈自立できるって素晴らしい〉
といった声が上がっている。
川口さんは現在、福岡県田川市にある柏芳会 田川新生病院の「訪問リハビリテーション」で、作業療法士として勤務。障害や病気、加齢などで動作の困難がある人のリハビリ、機能改善を担う。そのかたわら、片手でも使えるさまざまな自助具をインターネットで販売している。
本格的に自助具を作り始めたのは3年前。脳卒中の後遺症で片手が使えない患者から「ペットボトルを開けられない」という悩みを聞いたことがきっかけだ。
もともと木工作業が得意で、患者のために訓練道具や生活道具を作っていた川口さん。時間を有効に使うために3Dプリンターを購入した。実は大学時代は建築学科で学んでいたため、図面作成ツールを使いこなせるのだ。そのスキルを生かし、わずかな力でもペットボトルが開けられる「オープナー」を作って患者に手渡したところ、たいそう喜ばれた。それを知人がSNSで紹介したところ大きな反響があり「広く使ってもらえれば」とネット販売を始めた。
その後も「片手でタオルを絞れる」「片手で爪を切れる」「片手で納豆をかきまぜる」など、幅広い用途の自助具を商品化。その数は60種類に迫る。3Dプリンターも何台も買い直して製品の質向上に努め、累計の注文数は3000件を超えた。
自助具を作る作業療法士が増えてほしい
川口さんは「道具があることで『自分1人でできる』『できなかったことができるようになる』ということが、当事者にとって重要かということは身にしみて感じます」と話す。
自分と同じような作業療法士が増え、自助具を作ることがより手軽になることが理想だと話す川口さん。「自助具を作る人が増えれば、それだけ多様な視点の自助具ができる」とし、3Dプリンターによる自助具の作り方の講座を開くといった活動にも尽力している。「当事者の生活での困りごとを僕ら作業療法士が顕在化させ、形にしていくことが大切。生活の数だけ自助具を作りたい」としている。
◆「片手で皿洗いができる自助具」販売ページ
https://isotope.thebase.in/items/82391783