阪神・淡路大震災(平成7年兵庫県南部地震)から、2025年1月17日で30年となります。
震災発生当時は、震度観測点の数は現在のわずか1割にも満たず、人の体感をもとに震度を決定している時代でした。震災をきっかけに進んだ、地震の観測技術の向上や地震情報のあり方の変化、新たな情報の発表・提供について詳しくまとめました。
震度観測点の数は大幅に増加 約300箇所から4300箇所以上に
阪神・淡路大震災をきっかけに大きく変わったことの一つが、震度観測点の数の増加です。
震災翌年の1996年、気象庁は震度観測点の数を約300箇所から600箇所以上に増やし、地方公共団体などは独自に震度計を設置して、自らの初動防災対応に活用しはじめました。その後、地方公共団体や防災科学技術研究所が整備した震度計のデータについて、準備のできたものから気象庁の地震情報に含めて発表してきました。
2024年11月21日現在、気象庁約670箇所、地方公共団体約2900箇所、防災科学技術研究所約800箇所と、合わせて4300箇所以上の震度観測点のデータを、気象庁の地震情報の発表に活用することができています。
震度6「強」など新設 現地調査や体感による観測を廃止
次に大きく変わったことは、震度階級の細分化です。
1949年に設定された震度階級は、震度0~7の8段階でした。しかし、震災翌年の1996年には、幅の大きかった震度5と震度6にそれぞれ「弱」と「強」を設け、現在の10段階になりました。
震度階級の細分化と時を同じくして、震度を決定する方法も変わりました。
阪神・淡路大震災は、震度階級に震度7が設けられて以降、国内で初めて震度7を観測した地震です。しかし、震災発生当時、震度7については、現地調査による“被害の大きさ”によって震度が決定されることになっており、その判定には時間がかかってしまいました。
震度7の地域があると最初に確認されたのは、震災が発生してから3日後のことです。兵庫県神戸市三宮や淡路島北淡町などで震度7に達していたことが分かってから、被害地域を中心にさらに詳しく現地調査を行った結果、震度7に達する地域が、兵庫県神戸市須磨区から西宮市にかけてほぼ帯状に分布し、やや離れた宝塚市でも見られることが分かってきたのです。
そして、震度7の地域が気象庁から正式に報道発表されたのは、震災発生から21日が経った2月7日でした。
この経験から、1996年には震度7の判定を震度計の観測で行えるようになり、震度7の速報が可能となりました。
なお、震災発生当時、震度0~6の判定については、すでに震度計の観測が取り入れられていたものの、気象庁職員の体感をもとに行われていました。体感による観測は1996年に廃止され、その後の震度の判定はすべて震度計の観測により行われています。
地震情報のあり方が大きく変わる 「速報性重視」へ
ここまでお伝えした取り込みは、地震情報の迅速な発信へとつながります。
阪神・淡路大震災を機に、地震情報のあり方は「速報性重視」へと大きく変わりました。
当初、気象庁の情報収集は、一般への公開が主な目的だったわけではなく、記録をしたり、予測情報を充実させたりするために、内部で利用することが基本となっていました。
しかし、阪神・淡路大震災を大きな節目として、地震情報は公開を前提に速報性が重視されるようになり、様々なところで活用されています。
防災関係機関においては、地震情報の震度は初動体制の立ち上げや災害応急対策の基準として重要なものです。報道機関においては、特に速報性が重視され、震度が地震時の特別番組への切り替えの基準などに利用されます。
そして、住民にとっては、自らが強い揺れに遭った場合に揺れの大きさを知り、どのように対処すべきかを判断したり、家族や知人の安否確認をしたりするために、震度が利用されています。
「震度5弱以上未入電」 この情報の大切さとは
震災翌年の1996年、気象庁より新たな情報が設けられました。
それは、震度5弱以上と考えられるのに震度データが入らなかった場合に、「震度5弱以上未入電」として、その市町村や地点を発表するというものです。
背景には、震災発生直後、「神戸の震度6」の情報が回線障害によって通知されず、報道がなされなかったため、多くの人が神戸で大地震が発生しているという認識がなかったことがあります。
震度5弱以上とみられるのに震度データが入ってこない原因は、以下が考えられます。
①強い揺れなどにより震度計が破壊された
②強い揺れなどにより震度データ伝送経路で障害が発生した
③震度データの伝送に時間がかかっている
このように何らかの原因で震度データが入っていなくても、実際には、耐震性の低い木造建築が倒れたり、がけ崩れや地滑りが発生したりしている可能性があります。
「震度5弱以上未入電」の情報は、震度データが入っていないが震度5弱以上の揺れになっていると考えられるため、地震の規模を過小評価しないで、重大なこととして認識してほしいということを伝えています。
この情報が出された過去の事例として、2018年9月6日午前3時7分に発生した、北海道胆振地方中東部の地震があります。この地震では、震央付近の震度5弱以上と考えられる17地点で、震度データが入電しておらず、気象庁は、地震情報の中で「震度データ未入電」について発表しました。(上図参照)
震災から9年を経て 「推計震度分布図」の提供をスタート
「震度5弱以上未入電」の情報が発表された際に役立つのが「推計震度分布図」です。
「推計震度分布図」とは、観測点の震度データなどから、面的な震度を推計するものです。
阪神・淡路大震災を受けて、内閣府(当時の国土庁防災局)と気象庁が技術開発を続け、震災から9年を経て2004年3月より提供がスタートしました。
観測はあくまで「点」の情報ですが、震度を「面的」に表示することで、観測点のない地域や未入電の地点でも、揺れの強さを把握することができます。
推計震度分布図は、原則として最大震度5弱以上を観測した場合に発表し、推計震度4以上の範囲を示します。震度5弱以上を観測していても、強い揺れの範囲に十分な広がりが見られないときなどは、分布図を提供しないことがあります。
また、地表で観測される震度は、軟弱な地盤では揺れが大きく、固い地盤では揺れが小さくなりやすいなど、地盤の影響を大きく受けます。このため、震度計で観測された震度データをもとに、この特性(地盤増幅度※)を使って、250m(2023年1月31日以前は1㎞) 四方の格子間隔で震度を推定し、計算しています。
前述の2018年9月6日午前3時7分に発生した北海道胆振地方中東部の地震では、気象庁は入電していない観測点について、「推計震度分布図の推定では、厚真町で6強、むかわ町で6弱とされる」などと発表しました。(上図参照)
このように「推計震度分布図」によって地震に伴う強い揺れの広がりを迅速かつ的確にとらえることで、防災関係機関の効果的な応急対策の実施へつながっています。
※ 地盤増幅度
地表付近(地下の基準となる面から地表まで)における揺れの増幅を表す指標。軟弱な地盤では大きな値に、固い地盤では小さな値になります。
阪神・淡路大震災をきっかけに、震度の観測技術や情報発信の質は大きく向上しました。
災害時の情報のあり方や、私たちの防災への意識も大きく変わったといえるかもしれません。
震災で学び得たことを、30年という節目に改めて振り返り、
これからのさらなる技術と質の向上に期待し、一人ひとりの意識と備えが未来の防災につながることを願います。