総合人事・人財サービスのアデコ株式会社が2024年5月に公開したアンケート調査によると、現在勤めている会社がホワイト企業であると答えた若手社員・職員の4割以上が、勤務先が「ゆるブラック」であると回答しています。
この調査では「ゆるブラック」を「働きやすく居心地は良いが、仕事のやりがいや成長を感じられず、スキルアップやキャリアアップも難しい職場」と定義してアンケートが実施されました。また現在の勤務先が「ゆるブラック」であると考えている社員のうち約4割は、1年以内の転職を視野にいれているようです。
今年の春に大学を卒業したAさんが入社することになった企業も、そんな「ゆるブラック」な企業でした。Aさんが入社した企業は、大手企業ということもあり福利厚生はしっかりしているし残業もそれほど多くなく、有給休暇の取得率も高い職場です。職場の人間関係もよくハラスメントの不安もない職場で、ホワイト企業と呼ばれるような環境ですが、Aさんは日に日に不満を抱えていきます。
Aさんが抱える不満は「自分がやっている仕事は、ほかの誰でもできるのではないだろうか」「自分はもっと厳しい環境で成長したいけど、この会社では達成感もなく成長が実感できない」というものです。この不満について上司や先輩に相談をしても、今の環境に満足する人が多くAさんが目標にするような人には出会えませんでした。
そこでAさんは転職活動を始め、その半年後には厳しい環境ということで有名な外資系企業への入社を果たすのでした。Aさんのような若手社員が増えているのはどのような背景があるのでしょうか。キャリアカウンセラーの七野綾音さんに話を聞きました。
ー「ゆるブラック」企業とはどのよう会社なのでしょうか
明確な定義は存在しません。長時間労働やハラスメントがなく労働者にとって働きやすい環境のように見えるものの、やりがいや成長実感、達成感が感じられない企業が「ゆるブラック」と呼ばれているようです。
実際に転職を考えている人からは、業務自体は簡単で負荷もないが、自分でなくてもこの仕事はできると感じて転職を考えるようになったという話も耳にします。また尊敬できる上司がおらず、キャリアプランが描けないというのもよく話される内容です。
ー実際にゆるブラックに嫌気がさして辞める若手は増えているのでしょうか
数年前と比べると、20代や30代の転職は減っているように感じます。ただ転職する理由に変化が出てきているようです。5年ほど前であれば、業務内容がハードで残業が多すぎるというものや、上司からのパワハラが原因という転職理由を多く耳にしていました。しかし最近は、今の仕事が緩すぎて張り合いがない、もっと働きたいけど残業規制されて稼げないといった理由が増えてきています。
ーなぜゆるブラック企業が誕生したのでしょうか
理由のひとつに働き方改革があると考えます。長時間残業が規制されハラスメントの対策がおこなわれたことで、企業や上司の従業員への対応が変化しました。無理な残業を指示しなくなったり、従業員を尊重して丁寧に接するようになったりなどです。
また新型コロナウィルスの影響で、オンラインで仕事が完結するのを体験したのも大きいでしょう。それまで社内のコミュニケーションの場であった飲み会などの機会が減り、社員間の関係性が希薄になってしまったと感じます。
もちろん働き方改革は必要だと思うのですが、緩さと働きやすさの線引きができていない企業がゆるブラックに陥ってしまうのでしょう。企業は働きやすさや人間関係の良さだけでなく、社会の中でどんな役割を果たしているのか、何を目指しているのかといった情報を発信し、従業員にやりがいや成長実感を与えることが求められています。
◆七野綾音(しちの・あやね)キャリアカウンセラー/キャリアコンサルタント
やりがいを実感しながら自分らしく働く大人を増やして、「大人って楽しそう!働くのって面白そう!」と子ども達が思える社会を目指すキャリアカウンセラー/キャリアコンサルタント。