コミュニケーションツールはバレーボール。女優の大西礼芳(34)が、山西竜矢が主宰するピンク・リバティの新作公演「みわこまとめ」(東京・浅草九劇にて8月29日から)に主演する。日々稽古が続く現在を「燃え尽きるギリギリ」と苦笑いで表す大西だが、稽古前1時間のバレーボールで本番に向けての体力と結束力を高めている。
ギリギリでボロボロ
大西演じる主人公・実和子の半生といびつな恋愛遍歴を通して、現代を生きる人々の寂しさや欲求、狂気を描く悲喜劇。大西は「約2時間ノンストップで絶望を繰り返す実和子の激しい生き様を演じるので、頭の中はグチャグチャです。稽古の段階で体力が燃え尽きるギリギリでボロボロですが、共演の皆さんのお力を借りながら本番に向けて出し尽くしたいと思います」と意気込みは十分だ。
しかも舞台初主演作。「最初から最後まで舞台に立ち続けて動き回ってしゃべり続ける経験も初。実和子を演じることもさることながら、この作品をどう完成させてどのようにお客さんに届けていくべきなのか。座長として俯瞰しながら考えなければならないことも沢山あります」と大役を担う責任を痛感している。
五輪バレーで白熱
「私は円滑に人とコミュニケーションを取るのが得意ではなくて、稽古初期の頃はどのように皆さんと仲良くなればいいのか悩んだりして不安がありました」という大西だが、主宰の山西が提案したバレーボールが状況を好転させてくれた。
稽古開始前に3つのチームに分かれてラリーを1時間繰り返す。アタックなどの攻撃は禁止というルールのもと、お互いに声援を送りながらボールをパスし続ける。ストレッチや発声などの準備運動という意味もあるが、いざやってみるとお互いを知る意思疎通の効力を発揮することに驚いた。
「それぞれが優しく相手にトスしながら『いけるよ!』『大丈夫!』『ナイス!』と声掛けをしながら、最後は笑顔でハイタッチ。皆さんが感情を包み隠さず表現されるので『あ、この人はこんなタイプなんだ』というのがわかって色々な発見がある。気づいたらお互いの心の壁がなくなっていて、ちゃんと目を見て喋ることが出来るようになりました。バレーボールから生まれたコミュニケーションが芝居にプラスに活きている実感もあります。ちなみにパリ五輪でバレーの試合が行われた翌日はより白熱しました」
生きるエネルギーを
バレーボールを通したコミュニケーション効果か「稽古が終わるとみんなグッタリしているけれど、笑いの絶えない稽古場です。共演の皆さんも個性的で演技も面白い。そんないい雰囲気の中で私の考え方も変わりました。得意じゃないところは他の共演者の方々にお任せをして甘えてもいいのかなと」とすっかり一枚岩の結束が生まれている。
好きになった男性にすべてを捧げる性格が災いし、ヘヴィな生き方を選択していく実和子。大西は「私自身は道徳的な正しさを優先する考え方が人一倍強い性格。実和子のような破滅的な道を歩む女性を演じることに対して自信がありませんでした。けれど稽古を通して、実和子の他者を信じる力に生きるエネルギーを感じました。実和子の生き方のその全てが共感されるわけではないのかもしれないけれど、舞台の幕が開いたときに私はそんな彼女の生き様を肯定したい。観客の皆さんには私が感じたのと同じように、実和子の発する生きるエネルギーを感じてほしいです」と力を込めている。
【大西礼芳プロフィル】
おおにし・あやか 2013年に演技未経験ながら高橋伴明監督「MADE IN JAPAN―こらっー」で主演デビュー。その後、土屋貴史監督「花と雨」では東京国際映画祭 日本映画スプラッシュ部門正式出品、鈴木卓爾監督「嵐電」では第11回TAMA映画祭最優秀作品賞/高崎映画祭最優秀作品賞を受賞した。主な出演作品は、BS時代劇「あきない世傳 金と銀」(2023/NHK)、「夜明けまでバス停で」(2022)、映画「鯨の骨」(2023)「めぐる未来」(読売テレビ/2024)、映画「見知らぬ人の痛み」(2024)、映画「初級演技レッスン」(2024)。