昨今、今までにない新しいライフスタイルとして「FIRE」が注目されています。「FIRE」とは「Financial Independence Retire Early」の略称であり、「経済的に自立した早期リタイア」という意味です。
早期リタイアというと、ビジネスで大成功したり遺産相続で巨額の財産を受け取ったりして、一生働かなくても金銭的に困らないような億万長者が、仕事をしないで悠々自適に暮らす様子をイメージする人は多いでしょう。
しかし、FIREで提唱されている早期リタイアは、億万長者になるものではありません。FIREの早期リタイアは、資産運用を若いうちからおこない、運用益として受け取れる金額で生活できる状態を作り出し、仕事からリタイアすることを指します。
いずれ迎える老後の生活に金銭的な不安を感じているAさん(都内在住・40代独身)も、FIREを目指すサラリーマンのひとりです。
AさんがFIREを目指すために利用しているのは、個人型確定拠出年金という公的年金とは別に個人で年金を積み立て運用する仕組みの「iDeCo」です。
毎月、自分で決めた金額を掛け金とし、無理なくコツコツと積み立てられることから、多くの人が利用しています。また、iDeCoは掛け金が所得控除の対象で、発生した利益に対しては非課税であることも人気の理由でしょう。
そんなiDeCoにお金を回しすぎて、Aさんは現在困った事態に陥りました。
AさんはiDeCoを独自で調べ、お得な制度であることが分かると、企業型確定拠出年金に加入していない企業のサラリーマンの上限金額である23,000円を毎月の掛け金に設定します。
その結果、年収500万円のAさんは毎年55,000円程度の節税をおこないつつ、未来の自分のための投資もできて満足していました。しかし物価が上昇し、日々の生活費はどんどん高くなり、生活が苦しくなってしまったAさん。
苦肉の策として、iDeCoから今まで支払ったお金の一部を引き出そうとします。しかしiDeCoは原則60歳まで引き出せないことを知ったAさんは、節税効果にばかり注目してしまい、掛け金を大きな金額にしてしまったことを後悔したのでした。
生活に困ることなくiDeCoを使うコツ
AさんがiDeCoをどのように利用するべきだったのでしょうか。元メガバンク行員でファイナンシャルプランナーとして活躍している渡辺智さんに聞いてみました。
ーー生活に困ることなくiDeCoを使うコツはありますか。
iDeCoはお金を支払うことで節税効果も期待できる、とても良い仕組みであることは違いありません。
しかし、原則60歳まで解約できないのが欠点です。そのため、今の生活に影響が出ない程度の掛け金に抑える必要があります。また、もし今の掛け金の拠出が厳しい場合は、1000円単位で掛け金の引き下げができますので、Aさんの場合はこまめに収支バランスを見て掛け金を調整するべきだったのでしょう。
ーiDeCo以外で、老後資金を貯めるための良い方法はありますか。
NISAや貯蓄型の終身保険の活用を検討してみてはいかがでしょうか?NISAは基本的にいつでも解約ができるので、iDeCoのように資金が縛られてしまう心配はありません。
また貯蓄型の終身保険に関しては、10年程度保有をすれば、解約しても入金した保険料を上回る金額で戻ってくる商品が多いです。
IDeCoとこれらの商品を併用して、老後資金を貯めて念願のFIREを実現されてはいかがでしょうか。
◆渡辺智(わたなべ・さとし)/1級ファイナンシャル・プランニング技能士
メガバンクに11年間勤務。現在は金融ライターとして活躍中。メガバンク在職時には最優秀営業賞を2回受賞。富裕層を対象にするプライベートバンカーなどを歴任。「難しい金融をわかりやすく伝える」ことをモットーに活動中