当初1館のみだった劇場公開が55館に拡大公開中。異例の自主制作映画『18歳のおとなたち』をプロデュースしたのは、元タレントで芸能事務所兼制作会社社長の木谷真規(44)。完成した作品を「我が子のよう」などと例えることがあるが、木谷にとってこの映画はまさに我が子そのもの。産まれていたら18歳になっていた子供に向けての、母としてのラブレターなのだから。
実話をベースに映画化
「映画を多くの人に知ってもらうことの難しさを日々痛感しています。日々どこの劇場に何人のお客さんが入ったのか報告を受けるたびに、合格発表を聞くような気持ちになってドキドキ。心臓に悪い毎日です」と笑う。
中村獅童主演の『振り子』、村上虹郎、広瀬アリス、リリー・フランキーらが出演した『銃』などプロデューサーとして手掛けた作品は数多い。だが本作は製作、宣伝、配給の全てを初めて担った完全自主制作映画。会社経営20年目の集大成となる作品を手掛けたいと原案を探していた木谷は、知人でもある福島県の教職員が様々な事情を抱えた新成人たちと映画を制作し、成人式で上映したというエピソードを耳にした。
大人と子どもの狭間で問題を抱える若者たちが映画作りを通して成長する姿に感動したのと同時に、成人年齢が18歳に引き下がったことで起こるリスクについて危惧していた木谷は、現代の社会問題や複雑化した親子関係を織り交ぜたオリジナルストーリーとして映画化することを決める。
我が子に出会えていたら
映画が上映されるまでには、制作会社が作品を作り、配給会社が上映館を決めて、宣伝会社がPR活動をして…というシステムが基本としてあるのだが、木谷はそのすべてを自社で賄うことに。作品を我が子として扱い、愛を持って作り、最後まで愛を持って観客に届けたいという気持ちがあったからだ。
そこまでの強い思いを抱いたのには理由がある。
「今では仕事に生きると決めて夫婦二人で生活をしていますが、私たち夫婦には生まれてくることのかなわなかった子供がいました。もしあの時に出会えていたら今年18歳。もしかしたら私も今回の作品に登場する親たちと同じように、18歳の我が子に翻弄されていたのかもしれない。意図せぬ不思議なタイミングも含めて、この映画を作るのはどこか必然だったのではないかと。だからこそ、この映画を我が子の代わりとして大切に育てていきたい。母のように作品に接して、一人でも多くの人たちにこの思いを伝えることが出来たなら…」
そう言って木谷は目を潤ませた。
SNSで感動的バズリ
プロデューサーとしてのノウハウは持っているが、宣伝や配給に関わる業務は初めて。右も左もわからない中で、思いついたアイデアは即実行。劇場周辺や学校にチラシやポスターを配布し、事務所近辺の各店舗に応援を取り付け、業界関係者にも果敢にPR。
当初たった1館だった上映館も、3月1日の段階で55館に増えた。SNSも駆使して、劇中の母子の感動的ワンシーンをUPしたら120万回再生を記録。主演の兵頭功海らが行った初日舞台挨拶も即完売した。
「我が子だと思って作品に接していなかったら、たった1館のみで上映されて広がることなく終わりという悲しい結果になっていたかもしれない」
拡大公開に喜ぶ半面、封切りを迎えて映画興行の難しさと厳しさも実感。しかしまだまだやれることは残っていると身を引き締める。
「劇場によっては1週間で終わってしまうところもあるかもしれませんが、人間誰しも一度は18歳になるもの。映画館での上映がすべて終わったとしても、授業の一環として学校で上映することも出来ます。ニーズのある限りこの映画を全国に広めていきたいです」