1日に震度7を観測した能登半島地震の影響で、金沢市内の観光業が複雑な思いを抱えている。市内では震度5強を記録したものの大きな被害はなく、市場や観光名所も通常通りに営業を始めた。しかし、観光客はコロナ禍並に激減し、予約が9割キャンセルになった店も。ある店主は「お客様の不安がある以上、キャンセルも『かしこまりました』と言うしかありません。難しいとこですよね。全部が全部、経済を止めてしまうと活力がなくなってしまいますし。余震もあるから安心して来てくださいとも言えないし…」と話す。
お金を使って応援したい
金沢に注目が集まったのは、東京在住のライター・田幸和歌子さんが1月5~7日、家族で金沢旅行に訪れたことをSNSに投稿したのがきっかけ。金沢の台所「近江町市場」や、古い町並みが美しい「ひがし茶屋街」を散策したといい、「お店は開いているけど、人がいなくて、お店の人たちが困っている。ご飯食べてお土産買って、金沢でお金を使って応援したい」とつづった。ズワイガニの雌「香箱ガニ」をふんだんに使ったお寿司、車麩、フグの卵巣のぬか漬け…と贅沢な金沢飯の写真も添えた。
「安全なのか、迷惑になってはいけない、とキャンセルしようか迷いましたが、近江町市場や兼六園などは予定通り開けると発表されたんです」と田幸さん。いろんな情報から大丈夫だと考え、応援する気持ちで行ったという。新幹線で向かい、現地ではバスと徒歩で移動。でも、街はガラガラだった。「店の人が『参った、参った』と明るく話す姿が印象に残りました。ネットでは『石川県に行っちゃいけない』とばかり言われていて、地元の人は発信しにくいのかな、と。外の人間が行って、伝える意味があると思いました」
今のところ支援策なし
9割の予約がキャンセルになった「金澤寿し」は「被災の映像を見ていると、自分たちは大丈夫で、お客さんに来てくださいと発信していいのか、落ち着いた段階で言うべきなのか、判断が難しいです」と吐露する。一方、元気な人が経済を回すべきとの思いもある。「能登の人のために自分たちに何できるのかって、能登のお酒やお土産をおすすめするくらいですが…。暇なら暇なりに、商品開発や掃除をして。またお客さんに来てもらえるようにやっていこうと思っています」
金沢市によると、被災者を救済する「被災者生活再建制度」は自宅が破損した人が対象で、観光業など減収した人の支援は入っていないという。担当者は「自治体単独で支援はできず、コロナ禍のように、国からの要請があればできますが…。実際、市内で罹災証明の要望も1000件以上あって、そこまで支援が至っていないのが現状です」と説明した。
気象庁は今後1カ月ほど、能登など震源に近い場所で震度5強程度以上の地震に注意するよう呼び掛けている。