「衣食住が整ってない時に音楽のボランティアは迷惑になります」ーー1日に発生した能登半島地震を受け、ミュージシャンの呼びかけがネット上で話題になっています。自身のSNSに投稿したのはサックス奏者の亀井政孝さん。背景には、東日本大震災の仮設住宅で住人に投げられた言葉がありました。亀井さんに電話で話を聞きました。
仮設住宅で「なんだよ、こんな時に」
亀井さんは能登半島での地震発生翌日、自身のX(@MASAX7761)を更新。「とりあえず、今回の地震でミュージシャンの演奏ボランティアは一旦待った方がいいです。衣食住が整ってない時に音楽のボランティアは迷惑になります」とし、「音楽家の出番はある程度、衣食住が確保されてから。東日本大震災の時の教訓です」と呼びかけました。
亀井さんは2011年、仙台市内で東日本大震災に遭遇。祖父をはじめ、親戚数人を亡くしました。「沿岸部に比べたらまだまだましでしたが」と振り返りますが、電気やガス、水道が止まり、復旧するまでに1カ月ほど不便な生活が続きました。
地震発生から半年ほどが経った頃、被災地でボランティア演奏を行うミュージシャンが増え始めました。亀井さん自身も音楽関係者などに声をかけられ、ボランティアに加わりました。
「自分はボランティア演奏についてはやや気が進まなかったものの、いろいろな方に誘われて、結局合計30カ所ほどで演奏しました」(亀井さん)
しかしある仮設住宅で演奏したとき、避難者から「なんだよ、こんな時に音楽なんて」と言われ、石を投げられました。
「そんな大きな声でもなかったですし、思い切り当たるように投げつけられたわけでもないですが、大変ショックでしたし、『あぁ…やはりな…』と妙に納得した記憶があります」(亀井さん)
「一番大事なのは被災者の気持ち」
能登半島の地震をニュースで知った亀井さんは、「東日本のときの演奏ボランティアの教訓を生かさなければ」との思いから、今回の被災地で演奏を考えているミュージシャンに向け、呼びかけました。
「ボランティアする側が盛り上がっても、受け入れる側が負担になってはだめなんです。一番大事なのは被災者の方の気持ちです。善意の押し付けは困るんです。(過去の震災では)避難所での演奏のために電気を借りようとした話もあったと聞きました。東日本のときは全国から送られてきた千羽鶴や古着などの処理が大変だったという話もあります。人の善意が害になることもあるーー東日本でのこの教訓が生かされないのは残念です」(亀井さん)
亀井さんは自身の投稿を次のような言葉で結んでいます。
「明日食べる物もなく、震えて過ごす人達に音楽のボランティアしにいったら被災者がどう思うかは良く考えた方が良い。出番はそういうのが整ってから」(亀井さん投稿から引用)
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亀井さんの投稿は拡散し、3.4万を超えるいいねがつきました。ユーザーからは「タイミングは難しいですね」「タイミングを間違えたらただの自己満足」「現地以外でチャリティーコンサートをやって募金を送ればいい」「音楽を楽しむ環境をまずは整えないと」「復旧して心の余裕ができてからにしてほしい」などの声が寄せられています。