この異常事態は誰のせい? 30年間上昇していない「日本人の給料」の上げ方

松田 義人 松田 義人

何かと出費がかさむ年末年始。この機会に「お金」、そして政府が経営者に促すものの一向に上がらない「給料」についてじっくり考えませんか。日本人の給料の現実と、上げ方をわかりやすく解説した本が話題です。その名もズバリ「給料の上げ方」(デービッド・アトキンソン著、東洋経済新報社)。

著者は2017年から日本政府観光局特別顧問、2020年から政府の成長戦略会議委員などを歴任した伝説のアナリスト。給料の本質を明らかにし、給料を引き上げるために動き出せる戦略と戦術を紹介しています。

「30年上がらない賃金」

本署は冒頭から「日本人の給料」の現実について、以下のように解説しています。

日本人の給料は、この30年間ほとんど上がっていません。一方、同じ時期に、税金と社会保障費の負担が増えたたため、手取り収入は大きく下がりました。第二次安倍政権以降、岸田総理も含めて、歴代総理大臣は企業の経営者に「賃上げ」を訴えてきました。しかし、残念ながらその効果は微々たるものにとどまっています。一方、他の先進国では給料がコンスタントに上昇し続けています。

なぜ、日本と海外の国々ではこんなに違ってしまったのでしょうか。答えは「海外では個人が給料を上げる主役になっているから」、この一言に尽きます。

先進国では7割以上の労働者が、自分の給料を上げてもらうよう、毎年経営者と交渉しています。一方、日本人労働者を対象としたある調査では、7割以上の人が「賃上げを求めたことはない」と回答しています。逆に言うと、自ら賃上げを求めたことのある人は日本では3割にも満たないのです。(本書より)

「異常事態が30年続いている」

経営者への賃上げ交渉の必要性はよくわかる一方、日本人的にはなかなか難しいようにも感じます。しかし、このことについても著者は明確に指摘します。

いつのころに生まれたのかはっきりとはわかりませんが、日本にはお金にガツガツしたり、口に出すことを「はしたない」ととらえる風潮があります。そのため、「自分の給料を上げてくれ」と交渉するのが苦手だったり、慣れていないのも理解しています。また、日本人特有の奥ゆかしさも、給料交渉をためらわせる要素になっているのかもしれません。しかし、給料交渉をすることは、どこの先進国でもごく普通に行われているグローバルスタンダードな行為です。「恥ずかしいこと」でも「遠慮するべきもの」でもありません。このことは、これからの日本で生きていくうえできわめて重要なことですので、ぜひ肝に銘じておいてほしいと思います。(本書より)

 

「会社との関係」を捉え直せば給料は上がる

「賃金アップを経営者に求める」となると、労働組合が中心の交渉やストライキを思い浮かべますが、本書ではこういった日本の企業における従来型の交渉術ではなく、労働者個々が、平和裏に、経営者に給料に関する希望を伝え、賃金アップを目指すためのメソッドが数多く紹介されています。その主な内容は以下のようなものです。

・給料が上がらないのは「日本人の能力」のせいではない
・毎年4.2%の賃上げを実現する
・見限るべき社長、ついていくべき社長
・「よいものをより安く」では給料は上がらない
・あなたは「評価される側」から「評価する側」になる

言い換えれば、労働者個々が、自らをマネジメントし、ある種の「自営業」「事業主」的な考えを持って「会社と契約する」ことが、給料を上げていくための方法である、といったもの。前述の著者の解説にもある通り、これから先の日本では確かにこういった働き方は、避けて通れないもののようにも思いました。

「給料が上がらないのは、働く人の努力や能力のせいではない」

なかなか興味深い内容ですが、著者の優しい筆致によって、わかりやすく「交渉のメソッド」が解説されているのも本書の良い点です。最後に担当編集者に聞きました。

「2020年に、著者のアトキンソンさんに東洋経済オンラインで『日本人の「給料安すぎ問題」はこの理論で解ける』という記事を書いていただきました。この記事は200万近いPVを獲得、翌週のテレビ番組にアトキンソンさんが呼ばれるなど、大きな話題となりました。多くの人に『日本人の給料は安い』という認識を抱かせるきっかけとなり、この問題についての書籍も何冊か刊行されました。

本書は、記事で問題提起した『モノプソニー(少数の買い手が多数の供給者に対して独占的な支配力を持つこと)によって給料が抑えられている』状況を、どうすれば打破できるのか、その道筋を書いてほしいと思い、刊行が決まりました。給料が上がらないのは、当たり前のことでもありませんし、働く人の努力や能力のせいでもありません。雇う側と雇われる側、その関係性を見直すだけで、給料が上がっていく流れをつくることができます」

本書で紹介されている全てをすぐに実行できなくとも、「対価の交渉意識を持つ」「働く上でのマインドセット」のヒントにつながる解説がたくさんあります。ぜひ読んでみてください。

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