トゥルル…。電話に出ると、機械的な音声が流れる。「〇月〇日、〇人…」。何事かと思えば、人工知能(AI)による飲食店予約の代行電話だ。京都市内ではこうした電話を受け、困り気味の店もある。全国的に利用が増えつつあるサービスで、支持される背景には、時代の変化を感じさせる理由があるようだ。
すっぽん料理の「円亭」(下京区)。にごりのないスープが評判を博す。島原の花街の歴史が色濃く残る老舗の専門店にかかってきたのが、「オートリザーブ」というAIによる予約代行サービスの電話。「取らないと、延々鳴り続けた」。円亭の福室祥平さん(43)は明かす。出ると、自動音声が予約日時などを伝え始める。忙しかったため切ったが、少したつとまた電話が。5回ほどかかってきて閉口し、ついに着信拒否にした。
店の了解を得て、ある日の午後1時ごろ、記者がオートリザーブで円亭を予約してみた。アプリを入れ、流れに沿って予約日時や人数を記す程度で済む。後は自動で店に電話がかかる。円亭に着信拒否を解除してもらったところ、その日の夕方に電話があったという。確かに、日中は電話が難しい人や外国人、発話に困難を抱える人らにとっては有効なサービスかもしれない、とは感じた。
だが、店側は困惑の表情を見せる。円亭の営業時間などの情報をまとめたオートリザーブのウェブページもあり、両者が連携しているかのようにも見えるが、福室さんは「一切関係はありません。ページも消してほしい」と訴える。円亭では現在、「オートリザーブからの予約は受け付けていない」旨をホームページで明記し、注意を促す。
老舗に加え、今年できた新店にも影響が及ぶ。右京区の「町カフェ リコ」には10月、女性から「予約したんですが…」という電話があった。同店は予約制を取っておらず、山口智也代表(35)は「オートリザーブで予約を完了させたつもりで、念のために電話したのではないか」と推測する。オートリザーブによる同店のウェブページが存在しており、「予約できると勘違いした人が出かねない。誤解した人とのトラブルが不安」と漏らす。
オートリザーブは「ハロー」(東京都)が提供している。京都新聞社は、困惑している店があることや、一部に誤解をもたらしそうな個別店舗のウェブページを設けていることについて同社に複数回問い合わせたが、11月下旬時点で返答はなかった。
ただ、同社が夏に発表した資料によると、累計予約件数は50万件を超えたといい、人気のようだ。とはいえ、飲食店に電話ができないほど多忙を極める人がそうたくさんいるとも思えない。なぜ支持されているのか。円亭の福室さんに尋ねると、一つの見立てを教えてもらった。「電話をかけること自体が苦手という人がいるのではないでしょうか」