「社長のおごり自販機」、皆さんはご存じでしょうか。社員2人1組で自販機に行って、カードをかざせば会社のおごりでドリンクが2本もらえるという仕組みです。コロナ禍になって、人と話す機会が減ってしまった今。リモートワークが増えて職場の人ともなかなかコミュニケーションが取りにくい。そこで職場での雑談のきっかけとして生まれたのがこの「社長のおごり自販機」なのです。自販機に誘うのはもちろん、飲みながら話せるという〝飲みニケーション〟ができるから、全国のいろんな会社に広まっていきました。それが今年、全国で初めて「賃貸住宅」に「おごり自販機」が導入されたとのこと。早速潜入してみました!
プライベートを確保しつつ、周囲とつながりたい
全国ではじめて「おごり自販機」が設置されたのは「阪急西宮ガーデンズ」(兵庫県西宮市)の施設内にある賃貸マンション「ジオエント西宮北口」です。「社長のおごり自販機」、改め「西北のおごり自販機」が置かれた理由も、ずばり「入居者の交流」が目的。この物件を手がけた阪急阪神不動産株式会社の担当者によると、自販機の他にもさまざまな共用スペースが設けられているんですって。これらの共用スペースは、「プライベート空間も欲しいけれど、周囲とのつながりも欲しい」という入居者の要望を叶えることができて、実際に好評なのだとか。
共用スペースで顔見知りになった入居者たちが、自販機をきっかけに声をかけ合う。そもそも同じマンションを選んだ者どうし、無理に探さなくても共通点がある。「近所に新しくできた居酒屋が穴場だから一緒にどう?」なんてひと言が、想像もしなかった未来につながるかもしれません。思いがけず親友ができたり、生涯をともにするパートナーになる可能性だってゼロじゃない。「同じ釜のメシを食った仲」よりも「隣でプルタブを開けた仲」のほうが、気楽で些細で、それでいて心許せるなんてことが起こるかもしれないのです。
人との出会いを通して地域に愛着を
では、なぜ分譲ではなく、賃貸住宅で「おごり自販機」が置かれたのでしょうか。賃貸住宅には、分譲住宅と比べて遠方から転勤してきた人や、単身者などが多くいます。そんな人たちが、いつか長く留まる地を選ぶ際、「思い出の場所」「愛する街」として思い出してほしいという担当者の思いがこめられているのだそうです。「人との出会いや経験を通して『西宮』という街を愛してほしい」。そんなアイデアから生まれた「西北のおごり自販機」。「これまでに出会うことのなかった人たちが、住処という共通項でつながることで、人生がより良いものになれば」と、担当者は期待を込めて語りました。
「一緒に飲もうよ」 自販機が孤独を救う
「ソーシャルディスタンス」という言葉が浸透して、初対面の人間と交流を持つ機会がぐんと減ってしまった今。 “自販機でドリンクを受け取る”というのはいい口実になるし、“ドリンク片手にちょっと立ち話”は小さな孤独感を埋めるのにちょうどいいかもしれませんね。
◆丸安なつみ 語学系大学卒業後、数年にわたってウェディングプランナーを経験したのち、広報・マーケティング担当として企画提案やプランニング、ホームページ制作などに従事。ショー制作コーディネーターを経て、ライターとしてフリーランスに。エンタメや美容、グルメ系などオールラウンダーなライターを目指し活動中。