オリジナルメンバー再集結のくるり スタートの地の地元紙に明かした「京都愛」と「3人の立ち位置」

京都新聞社 京都新聞社

 京都出身のロックバンドで、楽曲制作の現場に迫ったドキュメンタリー映画が公開された「くるり」が、京都新聞社のインタビューに応じた。ボーカル兼ギターの岸田繁さん(47)は「音楽の真ん中にフォーカスしてもらった」と笑顔を見せた。

 約20年ぶりにドラムの森信行さん(48)が復帰したのが話題で、結成時のメンバーでのセッションがふんだんに盛り込まれているのも見どころの一つだ。

 岸田さんは「同窓会をするために集まったわけではない」と強調。原点回帰しつつ新たな化学反応を起こして前進する姿勢を示しながら、「3人でやると、それぞれが歩んできた音楽の風景が見えた」と振り返る。

 最新アルバム「感覚は道標」の発売に合わせたツアーも近く始まる。疾走をさらに加速させる3人に、初の2日間開催を成功させた野外音楽イベント「京都音楽博覧会(おんぱく)」や、京都の街が音楽に与える影響も含め、縦横無尽に語ってもらった。

 初のドキュメンタリー映画「くるりのえいが」(102分)は、音楽家細野晴臣さんのドキュメンタリー映画などを手がけた佐渡岳利さんが監督を務めた。2022年、アルバム制作のために静岡県伊豆のレコーディングスタジオに集まり、楽曲作りに打ち込む3人の姿に密着した。

 ナレーションはなく、自然体の3人にカメラが寄り添う。穏やかな伊豆の海の景色や、岸田さんが愛する鉄道の光景なども織り込んだ。

 制作やレコーディングでは、培った音楽的スキルを互いにぶつけ合い、高め合って昇華させていく姿が印象深い。観客はスタジオに入り込んで、曲に生命が宿っていく瞬間に向き合っている感覚を得られる。

 ベースの佐藤征史さん(46)は「曲が生まれて育って届くまでの映画。『ここが見どころ』という映画でもないが、観た人からは、すごく面白いと言われた」と話す。

 立命館大の軽音楽サークル「ロック・コミューン」で出会った3人。エモーショナルな演奏と歌詞が印象的で、デビュー作にして傑作と評される「東京」など、多くの作品を生み出したオリジナルメンバーでセッションしていく。

 岸田さんは「同窓会をするために集まったわけではないというのは、3人の共通意識」ときっぱり。

 佐藤さんは「映画の象徴が、森さんが『適当やで』と言って場面転換するところ。適当やで、というのを楽しむレコーディングができた。学生の時にそんな曲作りをしていて、そういう意味で原点回帰かもしれない。でも、最近はやっていなかったことができた」と感慨を込める。

 「サンバっぽいパターンで」と軽くイメージを伝えるだけで、その意味を深く理解して演奏が始まり、終われば自然と笑みがこぼれる。岸田さんは「最良の演奏をして、自分たちが楽しむのが大前提」と語る。

 さまざまな経緯でバンドを脱退した森さんは作中で「呼ばれて、複雑な気持ちもあった」と吐露したが、インタビューでは「思いついたことをぽんぽん出して、レコーディングで調理していくのが面白かった。居心地がよいというのが映画に現れているのではないか」と表情を崩した。

 京都市上京区の老舗ライブハウス「拾得(じっとく)」の50周年を記念したライブも収録されている。かつて拾得でバンド「騒音寺」の演奏を聞いて大きな影響を受けた岸田さんは「感慨深さもそこそこに、3人でライブをやる重圧、大変さが大きかった」と思い返す。

 結成から27年。日本の音楽シーンを引っ張ってきたバンドの歩みは、停滞する気配すら見せない。

 映画主題歌で、伊豆での光景や森さんの復帰を想起させるような歌詞が印象的な「In Your Life」や、くしゃみで始まる遊び心が楽しい「happy turn」、バンドの金字塔である名曲「ばらの花」へのオマージュを感じさせる「朝顔」、体が自然と揺れ出すようなサウンドが心地よい「馬鹿な脳」など、13曲を収めた14枚目のアルバム「感覚は道標」をひっさげて、大阪や東京などを巡るツアーに向かう。

 森さんは「アルバムをライブで聞いてもらいたい。ツアーに向けて全力を傾けたい」と力を込める。

 10月上旬には梅小路公園(下京区)で17回目となるおんぱくを開き、多くのファンで盛り上がった。「ファンが肩肘張らずに楽しんで、おんぱくの一部になってくれたのがうれしい」と岸田さんは喜ぶ。

 京都を基盤に活動するロックバンド「10-FEET(テン・フィート)」が全国区の知名度を得るなど、京都の音楽シーンの盛り上がりはどうみるか。岸田さんは「10-FEETは年も近く、すごいなと思いながら見ている。舞鶴市で大きなフェスが開かれるなど、北部でも音楽のお祭りが始まっていて、ええんちゃうかなと思う」と話す。

 京都という街と音楽との関わりにも話題は及んだ。佐藤さんは「音漏れしているのに夜まで音を出せるライブハウスがある。祇園祭では数週間前からコンチキチンと鳴っていて、街の音になっている」と評する。

 岸田さんは「耳で感じる音が京都は独特。(出身地の北区の)大徳寺の托鉢(たくはつ)の声や、古紙回収の変な音楽が風景とつながる」と指摘する。京都の風土からこれからも音楽的なインスピレーションを授けられつつ、くるりのこれからはますます面白くなりそうだ。

 映画の公開は終了している。

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