8月5、6日に島根県松江市であった松江水郷祭では2万発という花火の数とともに、1万3千席(2日間で2万6千席)の有料観覧席の数が話題を呼んだ。昨年までは約2600席(初日のみ)だったが、5倍に増え、市民の間で賛否が別れた。結果的に、用意した席に対し売れたのは7割で完売とはならず、最も安い席が5500円という価格設定の妥当性を問う声もあった。全国の花火大会でも有料観覧席の導入が主流になっているが、どのくらいの価格設定で結果はどうだったのか。調べてみた。
最高価格の席、低価格の席 30万円のベッド席不発
信用調査会社の帝国データバンク(東京都港区)によると、来場者が20万人を超える日本の主要な花火大会106大会のうち、有料観覧席を導入しているのは77大会で7割を占めた。有料観覧席の価格の平均は、「最安値」が4768円で、「最高値」が3万2791円だった。2日間で約65万人が来場した松江水郷祭は、最も安い席が5500円(1人席)で、最も高い席が5万円(4人席)。席の種類や対象の客層も花火大会ごとに違うので一概に比較することはできないが、どちらも平均より高い結果になった。
神奈川県小田原市で8月5日にあった小田原酒匂川花火大会(約1万発)は過去最大の25万人が来場した。主催の小田原市観光協会は、今年初めて定員2人のベッド席を30万円で5席用意したが、1席も売れなかったという。カップルなどの利用を期待したが、担当者は「話題になると思い設置したが売れなくて残念だ」と話した。お台場の花火大会など都心で高額の席が売れていることを受け「賭け」に出たが、響かなかった。観光振興が主な目的だが、見物客の多くは市民や近隣住民で、高額を払ってまで花火大会を見るまでには至らなかったようだ。
一律500円の花火観覧エリア
岩手県一関市のかわさき夏まつり花火大会(約1万発)では、約1万人が 収容できる有料の観覧エリアを設けた。規模的には松江水郷祭に近いが、価格は一律500円の自由席とした。主催の一関商工会議所によると昨年以前の花火大会では、最低4千円の席を約200席用意していたが、設営や管理費に見合う収益を得られなかった。このため、固定席を設けずに観覧エリアとし、安い価格で提供。前売り券は作らず当日券のみだったが、結果は8割が売れる盛況で、収益も前回大会を大きく上回った。同商議所の千田悠人さんは「一律500円としたことで管理しやすくなった」と話し、少ない負担で市民に楽しんでもらうことに成功した。
全席有料観覧席化や大型の花火大会
日本三大花火の一つで、全国でも有名な新潟県長岡市の長岡花火大会。花火が近くできれいに楽しめるエリアはすべて有料席にし、1千円(1席)~2万1千円(6人席)で販売した。事務局によると、全面有料化となったのは昨年から。コロナ禍前の19年の花火大会では、2日間で50万人以上が来場。無料エリアに人が押し寄せて川に落ちそうになったり、私有地に無断で観光客が居座ったりするなどのトラブルが起きたのがきっかけだ。今年の花火大会の来場者は約30万人で、同数を用意したチケットは完売した。市民の利用を意識し、最低価格は1千円。市民向けの販売時期を早めて優先的にチケットを販売し、地元にも配慮した。戸田幸正事務局長は「長岡市民第一で花火大会をやっている。これからも市民が楽しめる花火大会をしていきたい」と話した。
琵琶湖花火大会は?
滋賀県大津市のびわ湖大花火大会(約1万発)では有料観覧席を約5万席用意した。無料で出入りできる約2万人が収容できる無料エリアも併設し、全体で約30万人が来場した。主催の公益社団法人びわこビジターズビュローによると、観光客をターゲットにした有料観覧席の価格は4500円(1人席)~6万円(6人席)。周辺にフェンスを設置したことが、近隣住民が楽しめないと物議を醸したが、安全対策として2015年から設置し、コロナ禍前の19年も同じ高さと幅だったという。チケットはほぼ完売した。担当者は「安全に花火を楽しめることを今後も最優先していきたい」と話した。花火大会の主催者が恐れるのは、韓国の梨泰院でおきた雑踏事故のような事態のようだ。
有料観覧席のない花火大会ももちろんある。栃木県真岡市の尊徳夏まつり花火大会(約5千発)は設けていない。実行委員会によると、会場が河川敷で有料席を確保することが難しいという。寄付のほか、有料でパンフレットにメッセージを残すメッセージ花火の募集をするなど、財源確保に工夫している。
近隣ではどうだろうか。米子市のがいな祭は今年50回を記念し、例年の倍の約1万発の花火を打ち上げた。米子がいな祭企画実行本部によると2日間の来場者数は29万人だった。1万円が最低価格の有料観覧席が400席用意され、ほぼ完売。過去最高の売り上げだったという。
花火大会によって多様性
ターゲットや来場者の規模により、有料観覧席の値段設定にはそれぞれが置かれた事情があり、一様ではなかった。市民の娯楽か、観光振興か。松江水郷祭にも通じる課題を抱え、どの地域も試行錯誤する様子もうかがえた。物価高で花火の資材や運営費用が拡大している中、今後も有料化の流れは進みそうだ。帝国データバンク情報統括部は「有料観覧席はコロナ禍を経緯に増え、規模や形が多様化している。花火以外でも価格に見合った席のクオリティーや特別感を演出し、提供することが必要」と話した。