処理水放出で反日キャンペーン再び 中国との関係は悪化の一途 中国経済とのデカップリングを

治安 太郎 治安 太郎

日本が福島第一原発の処理水放出を開始したことにより、日中関係が急激に冷え込んでいる。冷え込んでいるというより、近年米中対立や台湾情勢などによって日中関係が冷え込んでいく中、今回の件でよりいっそう拍車が掛かったと言うべきだろう。

それ以降、日本国内へは中国の国際番号86から、無言電話や日本語で侮辱的な発言をする電話などが掛けられている。ホタテやウニなど豊かな海産物の多くを中国に輸出していた水産加工会社の間では、輸出できなくなったことによる経済的損害への不安が聞かれる。また、日本への団体旅行が解禁された中、今回の件で日本行きの航空券キャンセルが3割増加するなど、観光業界にも動揺が広がっている。

一方、中国国内では依然として反日的メッセージや動画が閲覧、投稿できる状態が続き、日本人学校などには石や卵が投げ込まれ、北京にある日本大使館は引き続き在中邦人に注意を呼び掛けている。

このような中、今後日中関係はどうなるのだろうか。先に結論となるが、国際政治や安全保障に照らせば、今後日中関係が改善の方向へ向かう可能性は極めて低く、米中対立や台湾情勢などの影響で暗い時代に入っていくことは避けられない。しかも、暗い時代は短期的に終わるものではなく、長期的に日中関係に影を落とし、その間に幾度も緊張が訪れよう。

日本産海産物の輸入停止と反日キャンペーンのようなものは、今後長期的に続く暗い時代の中で繰り返されていく。無論、台湾有事などが発生すれば、暗い時代を通り越して日中が戦闘当事者として向かい合うことになろうが、平時のときでも日本にとって中国との激しい摩擦が続くことだろう。今回の件は、そういう暗い時代の中の1つでしかない。

なぜ、そう断言できるのか。それは「お互いの要求」が互いに絶対に受け入れられないものだからだ。

たとえば、中国は米国に対して台湾への軍事支援を停止するよう要求しているが、米国にとって台湾は中国の海洋進出を抑える「最前線の防波堤」であり、中国が台湾を支配下に置けば、そこを拠点に太平洋へ進出してくる確証を米国は持っている。反対に、米国が台湾周辺での軍事的威嚇を止めるよう中国に要求しても、中国にとって台湾は内政事項であり、第一列島線を確保するには台湾は譲れない。よって、台湾は米中双方にとって互いの要求が飲めない問題で、対立が長期的に続くことになる。

これは日中間の尖閣諸島の領有権を巡る問題でも同じで、最近では日本が先端半導体の製造装置で対中輸出規制を始めた問題がヒートアップしている。日本の半導体製造装置が中国軍の近代化を押し進め、尖閣や台湾問題で日本の安全保障をこれまで以上に脅かすことになれば、それはもう自爆行為の何者でもない。

こういう確信的予想が付くのであれば、日本企業は時間が掛かるにせよ、脱中国依存を徐々に進めていき、可能な限り中国経済とのデカップリング(密接な関係の解消)を実現する必要がある。

おすすめニュース

気になるキーワード

新着ニュース