在外公館はやっぱり苦労している
私は、役人時代、ジュネーブで国際機関を担当する外交官として仕事をしていました。ジュネーブには、国際会議出席のために来られる閣僚等ばかりでしたし、メジャーな観光地があるわけでもないので、「国会議員の外遊問題」に悩まされることはほとんどありませんでしたが、それでも「飛行機の乗換えをするパリで少し観光をしたいので、アレンジしてほしい」というご要望をいただき、「国民に示しがつきませんので、おやめになった方がいいと思います」とお断りしたことがあります。(たぶん「頭の固い書記官だなあ」と、いやがられたと思います。)
一方、パリやロンドン、NYなどの日本大使館・領事館に赴任していた友人知人に聞くと、(国会閉会中の)夏に大挙して押し寄せる国会議員のアテンド問題には、やはり皆苦労していたようです。外交関係に尽力する本来業務に加え、議員のアテンドも、大使館員の重要な職務のひとつ、といった認識が、昔からあるようです。
在るべき外国訪問の姿とは
私は上記のような厳格な考えに基づいて、在外公館でも、議員としても活動をしていましたが、一方で、今回の件を巡るいろいろな意見の中に「(今回の件はまずいけれど)きちんと職務を果たした上であれば、現地の観光地についでにちょっと寄る、といったことはあってもよい」との意見も、なるほどそういう考え方もあるな、と思いました。
(政治の世界では、真面目にがむしゃらに頑張り過ぎると、やらねばならないことに際限がなく、苛烈な権力闘争の罠もあり、ただでさえ資金や人員に余裕がなく、地元でもイビられがちな庶民の議員は、心身や人生が壊れたりしますので、一定の「余裕」というものは必要なんだと思います。)
また例えば、海外の議員を日本に迎えた際に、日本の美しい景色や歴史的建造物、伝統芸能などに触れ、日本への理解を深めていただきたい、といった思いはありますので、その逆もあり、ということも言えるのだと思います。
ただやはり、いずれにしても、国民感情を考えれば、海外視察の本来の目的がきちんとしており、それを達成する手段として適切で、しっかりとその責務を果たした上で、ということが前提だろうと思います。「観光」が主目的や、仕事と同程度のボリュームがあると受けとめられるようなものはダメで、今のご時世、観光旅行は、完全にプライベートで、家族や友人と行っていただくべきものと思います。
なお、議員の果たす役割というのは、立場や期数等によっても違うと思います。例えば、(現職の方は言うまでもなく)元閣僚や党の重鎮の方などが外国に行けば、たとえ短時間であっても、相手国にとっては、それだけで大きな意味がありますし、その発言は重く受けとめられます。
いずれの場合にも、国民が納得する成果を出せる能力や高い志、あるいは経験や権限といったものを持った上で、日本と相手国の役に立つことを行っていただくことが、国民の納得感と国益のためには、必要であろうと思います。
特に、日本では長きに渡る経済の低迷で、賃金は上がらない一方で物価は上がり、厳しい生活を強いられている国民の苦しみや不安を、本当の意味で、きちんと理解していただくことが、改めて求められていると思います。