大阪府豊能郡能勢町野間大原――車のナビに案内され進んでいくと、道幅がどんどん狭くなり、「え、ここで合ってる?」とちょっと不安になる山間部にARK(アーク)のシェルターはあります。
ARKとは「ANIMAL REFUGE KANSAI」(アニマルレフュージ関西)の頭文字を取ったもの。1990年にイギリス人女性、エリザベス・オリバー氏によって設立された動物保護団体です。動物の尊厳が主張され守られる日本を目指して、さまざまな理由で保護された犬や猫の心身のケア、社会化トレーニング、新しい家族を探す活動を行う一方、望まれずに生まれてくる犬や猫をなくすための不妊去勢手術の推奨、動物福祉水準向上のための啓蒙活動などを30年以上にわたって続けています。2016年には大阪府から認定特定非営利活動法人(認定NPO法人)にも認定されました。
方向音痴の筆者が一瞬、迷子になりそうになった山の中ですが、豊かな自然に囲まれ、酷暑が続く今も少しだけ涼しく感じられるこの場所は、犬や猫にとっては最高の環境と言えるでしょう。
日本の動物保護施設は“長期滞在型”
ただ、施設は老朽化が進み、少しずつリフォームを進めなければならなくなってきました。当然、費用が掛かります。
「長く活動を続けている団体ほど既存の建物が傷んでしまい、修繕・修復のための費用の捻出に頭を抱えているところは少なくありません」
そう話すのはアークの奥田昌寿さんです。
「エアコンもあるのに、長い間“物置き”になっていた部屋のリフォームを2年前から検討していました。でも費用の問題で頓挫していて…。そんなとき、パナソニック(ハウジングソリューソンズ株式会社)様から生き物の尊厳が守られる社会づくりの思いに共感いただき、建材製品の無償提供のお申し出をいただいたんです」
今年6~7月にかけてリフォーム工事が行われ、キャットウォーク・ステップに最適な『インテリアカウンター』や『内装ドア』『しきり窓』が設置されました。Before・Afterの写真を見比べれば違いは明らか。『Smile room』と名づけられたその部屋には今、4匹の猫が暮らしていて、事前に予約すれば見学もできるそうです。
「欧米のアニマルシェルターは収容から譲渡までが比較的、早いのですが、保護犬や保護猫を迎えるということがまだ一般的ではない日本では“長期滞在型”の施設が必要で、保護した後のQOL(クオリティ・オブ・ライフ=生活の質)を守るためにはある程度の広さと快適さが求められます。
400頭以上を収容していた10~20年前はケージを積み重ねて、下に犬、上に猫。猫はそこから出してあげられなかったり、世話をするスタッフのストレスにもなっていました。でも今回、パナソニック(ハウジングソリューソンズ株式会社)様のおかげでリフォームできた『Smile room』では、猫たちが自由に動き回ることができ、ドアやしきり窓は下の部分が“目隠し”になっているので、ストレスも軽減されると思います。そんな猫たちの姿を見ていると、われわれスタッフの笑顔も自然と増えますよね」(奥田さん)
保護動物たちに関心を
今回、パナソニックハウジングソリューソンズ株式会社が提供したのは『わんにゃんSmile』と名付けられた製品で、「人も、いぬも、ねこも仲良く暮らせるように、建材と空間づくりの工夫で家族みんながしあわせになるアイデアを盛り込んだペット向け建材製品」だそう(同社ホームページより)。通常は一般のご家庭で使用されるものですが、「ペットとともに幸せに暮らす豊かな社会・生活を創造する活動に貢献するために」アークへの無償提供を決めたと言います。
「私たちの活動は皆さんからのご寄付によって成り立っていますが、今回のように企業様からのご支援があると、より良い環境づくりが可能になります。活動に関心を寄せていただくだけでもありがたいですし、世の中に広く知っていただくという意味でも、非常に大きなことだと思います」(奥田さん)
アークをはじめ日本全国にある動物保護施設や個人活動家の自宅等で保護されている動物たちにとって、そこは“ゴール”ではありません。新しい家族と出会い、家族の一員として迎えられることが理想です。でも、だからこそ、その前のヒトとの暮らしを「楽しい」「快適」と思ってほしい。そのためにも「まずは関心を持っていただきたい」――それが奥田さんたちの願いです。