非日常な「空港」でパニックに 搭乗拒否になりそうな状況を救ったのは…「安心できる場所」「ほっとした」という空間が増加中

谷町 邦子 谷町 邦子

夏休みになると旅行や帰省で利用が増える空港。しかし、人が多く行き交い、騒がしい環境を不快に感じたり不安になる人も…そんなときに利用できるのが「カームダウン・クールダウンスペース(室)」。危うく搭乗拒否などのトラブルになりそうだったときも、こちらがあったからこそ救われたという人も。

できるだけ目立たないようにデザインされた小屋のような空間で、周囲からの視線は遮りつつ、内側は気持ちが落ち着くように空間がブルーになっていたり、吸音パネルが貼ってあって、外部からの音は抑えながらも搭乗アナウンスは聞こえるよう配慮されている同施設。

こちらは、外からの音や光、視線を遮断し、「知的・精神・発達障害、自閉症、認知症、感覚過敏などの症状」のある人が不安や緊張を和らげる空間を目指し、2018年に「成田空港」で設置されたのを皮切りに空港では現在6カ所にあります(2023年7月時点)。

設置空港のひとつである新千歳空港を運営する北海道エアポートは、7月に『ひまわりストラップ/カームダウン・クールダウン室 セミナー』を開催。専門家とともに障害がある当事者らが登壇し、使用した感想や思いが語られました。

当事者「すごくホッとした」空間だった

まだ認知度も低く、無料で予約なしで利用できることから使用頻度などは把握できていないという「カームダウン・クールダウンスペース(室)」。外側にはJIS規格のピクトグラムを掲出し、「このスペースは、気持ちを静めるためのスペースです。皆さまのご配慮をお願いいたします」と4カ国語での案内看板を設置するなど、周知のために各施設が試行錯誤を重ねながら運営されています。

そんななか、設置してからこんなエピソードも。羽田空港での手荷物検査の際、障害がある搭乗者が自分の大事にしているものを一時的に手放さなくてはいけないという状況からパニックになり、周囲の人に対して乱暴な態度をとってしまいました。それを見た空港職員は気持ちが高ぶってしまった理由に気づき、現場に駆け付けて、「カームダウン・クールダウンスペース(室)」に誘導。落ち着きを取り戻し、無事に搭乗することができたということもあったそうです。

不登校や引きこもりなどの人たちが集まる「非営利活動法人楽しいモグラクラブ」理事長の平田真弓さんは、自身も自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)を持っています。音や光に敏感で方向感覚が弱いなどの特性があり、どこかに行くときは1時間余裕を持って行くとのこと。

「旅行は冒険」という平田さんは、「その冒険に出るために、安全・安心な場所(カームダウン・クールダウン室)があることが必要。今回訪れた新千歳空港で利用して、すごくホッとした。(自身が必要とする)パーソナルスペースが人より広いんだなと実感しました」と言います。

またデイサービス「DAYS BLG!はちおうじ」の当事者スタッフ、認知症の人とその家族のための相談窓口「おれんじドアはちおうじ」の代表をつとめ、2019年に若年性認知症の診断を受けたさとうみきさんも同施設を利用。認知症は「もの忘れ」「道に迷う(迷子)」という良く知られている症状に加えて、疲れやすさ(身体、脳疲労)、空間認知機能障害、聴覚・視覚過敏、幻視・幻聴など多様な症状が。それらの影響で、動作に時間がかかってしまうこともあるそうです。

そんな彼女が同施設については「調光できる点や、広くて家族と過ごせそうな点が良かったです」と話し、以前訪れた羽田空港の、第1ターミナルの17番搭乗口付近にあるキッズスペースに隣接しているカームダウン・クールダウンスペースについても言及。子どもが遊んでいる近くでクールダウンするのは難しいのではないかと感じたそうですが、他のきょうだいがいる場合、落ち着くまで遊ばせておけるという使い方があるならば、多様な設置が必要なのではないかと思ったそう。そんな彼女の意見に対して、羽田空港は設置場所については、利用者のニーズに応じて将来的に移設も含めて検討するそうです。

セミナーには支援団体も参加。障害者の旅行に同行するボランティアの人は、「カームダウン・クールダウンスペース(室)」について、かつて障害を持つ子どもが飛行機に搭乗した時にパニックを起こし、機長判断で保護者とともに降ろされたそうで、「その時にあればよかった」と語りました。

目に見えにくい疾患・障害をさりげなく伝える「ひまわり」

また、今回のセミナーではカームダウン・クールダウン室とともに重要な話題として取り上げられたのが「ひまわり支援ストラップ」です。空港を利用する人が、発達障害や認知症、肺疾病、慢性疾患など、目に見えにくい障害があることを示すことを選択できるひまわりの花がデザインされていて、首から下げて使用します。

ストラップは「自分の障害を公表することなく」「必要なときにサポートや支援をうけられ」、「少しの時間を得ることができ、自信をもって自立した旅行ができるように」することを目的とし、世界24か国、179空港で採用または採用予定(2022年11月時点)、国内では羽田空港、成田空港、福岡空港、那覇空港、新千歳空港、さんふらわあターミナル(フェリー)で試験的に導入されています。

◇ ◇

車椅子で移動する、白杖を持っているなど、目に見える障害がある人たちへの理解も充分に広がっているとは言えない現状。知的・精神・発達障害、自閉症、認知症、感覚過敏など目に見えにくい障害がある人たちも含めて、健常者と同じように自由に移動する権利があり、当事者らとともにそのために取り組む人たちがいます。今、自分に障害や持病がなくても、取り組みやそのための施設について知っておくことは、大切なことなのではないでしょうか。

【各空港の設置場所「クールダウン・カームダウンスペース(室)」】

新千歳空港…全4カ所、国内線のセンタービル(1階)、搭乗待合室内の搭乗口19番付近(2階)、101・102ゲート付近(1階)、国際線ターミナルビルには更衣室内(3階・既存車いす用更衣室と兼用)に設置。

羽田空港…第1、第2ターミナル国内線保安区域内のそれぞれ2カ所、計4カ所です(第1ターミナルはA保安検査場付近、17番搭乗口およびキッズスペース付近、第2ターミナルではA保安検査場、C保安検査場付近)。保安区域内に設置された理由は、障害のある人が手荷物検査時に不安を感じるケースがあることだとしています。2023年度中には第3ターミナル内にも設置予定。

成田空港…第1~3ターミナルの計7カ所。第1ターミナル国内線・国際線の保安検査後エリアに各1カ所。第2ターミナル国内線・国際線の保安検査後エリアに各1カ所。第3ターミナルは本館2階の出発手続き前エリアに居室型が1カ所、国内線・国際線の保安検査後エリアに各1カ所となっています。

■新千歳空港ターミナルビル公式サイト https://www.new-chitose-airport.jp/ja/
■成田国際空港公式WEBサイト https://www.narita-airport.jp/jp/
■空港予習冊子 「なりたくうこうから りょこうへいこう!」 https://www.narita-airport.jp/jp/service/service_info17
■羽田空港公式WEBサイト https://tokyo-haneda.com/
■公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団「カームダウン・クールダウン Calm down,cool down について」 https://www.ecomo.or.jp/barrierfree/pictogram/calmdown-cooldown/

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