悲劇のヒロインを演じずに、人生を遊び尽くしてほしい
現在、田嶋さんは障害者雇用枠を利用し、東京で事務職に就いている。健常者と働く中では、体調管理に対する悩みや内部疾患を説明することの難しさを痛感することもあるという。
「自分の中での“頑張る”は無理をすることに繋がるので、どこまで無理をして、どこまで無理をしないかを図っていくのが大変です。それと、自分が感じている“体が重い”などの微妙なラインの体調不良を言葉で説明するのが難しいですね」
そうした悩みはあるものの、田嶋さんは自身の心疾患をハンデではなく、武器と捉えている。
「過去に体調が悪化した時は落ち込んだし、心臓病がなければ…と思うことは今も時々、あります。でも、そうやって暗くいると、さらに悪くなりそうだから、デメリットだと思えることを武器に変えていこうかなと。せっかく、心疾患を持って生まれたんですから」
悲劇のヒロインになるのではなく、心疾患を武器にし、一緒に生きていく…。そんな生き方を選んで、人生が明るくなる心疾患者が増えることを田嶋さんは願っている。
「持病を受け入れるには段階があります。何も受け入れられない時や、どこに視点を向ければいいのか分からない時もある。だから、自分の生き方を伝えて、そういうどん底から、どうあがっていくかを提示したいと思っています」
また、田嶋さんは心疾患児を持つ親御さんには、過保護になりすぎない見守り方をしてほしいと訴える。
「なるべく小さな頃から、子どもを色々な人と触れ合わせて、社会に慣れさせてあげることも大切だと思います。可哀想と言われて育つと、自分をそう捉えてしまうし、外の世界に慣れていないと、周りを敵だと思ってしまうこともあるから。親自身も、我が子の障害をひとりで抱え込みすぎないようにしてほしいです」
そう語る田嶋さんは同じ心疾患を持つ仲間に、「遊び倒せ」というエールを贈る。
「目標を決めて動くと、自分がどういう人間なのか分かってくる。だから、人生を遊び倒して、何がよくてダメなのかを自分で知っていくことって大事だと思うんです。そのほうが人生、楽しいですしね」
そういう心疾患者が増えるには、社会が少しずつ変わっていく必要もある。田嶋さんが望むのは、誰が何を言っても否定しない世の中だ。
「障害の有無にかかわらず、誰に対しても、頭ごなしに否定せず、その人の気持ちを一旦受け止められる環境っていいなと。例えば、誰かが辛いと言った時、自分のほうがもっと辛いと思うのではなく、その人にとっては辛いことなんだなと受け止めてあげることが大事だと思うんです」
社会に出て、辛さを口にすると、甘えだと言われてしまうことも多いが、当事者が感じている辛さをどうすれば解消できるのかを共に考え、一緒にステップアップしていけるような共生社会が築かれることを、田嶋さんは願っている。
まずは、自分が好きなことをどんどんやっていきたい。全国をまわって講演会をしたいし、武道館でライブをするのは、人生のなかでやり遂げたいことのひとつ――。そう意欲を燃やす田嶋さんは人生を遊び尽くしながら、同志に希望を与え続ける。