あぶらとり紙の「よーじや」がイメチェン? スタジアムに流れる「京都に、もっとキュンキュンを♡。」…激アツ青年社長が描く戦略とは

国貞 仁志 国貞 仁志

 「京女」が映る手鏡をモチーフにしたあのロゴマーク。「よーじや」のあぶらとり紙は京都みやげの定番として、全国に名が知れわたっている。

 来年で創業120年を迎える、そんな京都の老舗が5月から、突然サッカーJ1京都サンガFCのスポンサーになった。

 サンガのホームゲームでは客席の下に備えた帯状のLEDビジョンに、こんなキャッチコピーが試合中に時折、流れる。

 「京都に、もっとキュンキュンを♡。よーじや」

 観光客をターゲットにした商売でブランドを確立した企業が、なぜいま地元のJリーグクラブを支援するのだろうか。

 よーじやがサンガにコンタクトを取ったのは今年3月。サンガから営業があったわけでも、他の企業の紹介を受けたわけでもない。サンガの公式ホームページにある「お問い合わせフォーム」に用件を送り、サンガの営業担当者と面会した。

 サンガのスポンサーは協賛額によって4つのカテゴリーに分かれている。最上位は京セラや任天堂など7社が名を連ねる「トップスポンサー」。次にNidec(旧日本電産)やオムロンが入る「プラチナ」。その下に「ゴールド」「シルバー」と続く。

 よーじやは知名度が高いものの、グループの資本金は1600万円、社員数は約90人(アルバイト、パート除く)と大きな企業ではない。当初は「シルバー」での契約を検討していた。

 國枝昂社長(33)は4月15日、社員を連れて、初めてサンガスタジアム京セラ(京都府亀岡市)でホームゲームを観戦した。ガンバ大阪との「京阪ダービー」だった。

 試合は拮抗した展開となった。1―1の後半37分、サンガのFWパトリック選手が劇的な勝ち越しゴールを奪い、そのまま勝利を収めた。

 國枝社長は「魅力的な試合は人を元気にさせる」と思いを新たにし、協賛額がシルバーの「倍以上」というゴールドスポンサーになることを決めた。

 もっとも、勢いにまかせて趣味や道楽でスポンサーになったわけではない。そこには企業の生き残りをかけた、國枝社長ならではの戦略がある。

 よーじやは1904年、日露戦争の年に舞台化粧道具の行商から京都・三条に「國枝商店」という店を構えた。

 現社長は5代目にあたる。大阪大を卒業し、公認会計士として大阪市内の大手監査法人で働いていたが、4年前、先代の父親が心筋梗塞で倒れ、家業を継ぐことになった。

 経営者になってすぐ、いきなり苦難が押しよせる。新型コロナウイルスが猛威をふるい、京都から観光客が消えた。いわずもがな、主力商品のあぶらとり紙の売上は大きく落ち込んだ。

 あぶらとり紙は1990年代から2000年代前半にかけてブームとなった。だが近年は肌に悪いといった誤解や若者にとっては古いものといったイメージが広がり、そもそも売上は下がっていた。

 國枝社長は、業績改善のため、思いきった方針転換を打ちだす。

 それが「脱観光依存」。

 「来年で創業120年になる会社なのに京都に貢献することをしてこなかった」という反省があり、國枝社長は、京都の人に親しまれる企業であるにはどうしたらいいかと考えた。

 そのときに真っ先に思い浮かんだのが、地域密着をかかげ、京都を背負って戦っているサンガだった。

 國枝社長には、2003年の元日にサンガが天皇杯決勝で鹿島アントラーズを破り優勝した記憶が鮮明に残っていた。当時中学生。「前年にJ2で優勝してJ1に上がり、朴智星(パクチソン)や松井大輔がいて応援していました」となつかしそうに振りかえる。

 一方、サンガにとって、よーじやがゴールドスポンサーに加わったことは金額以上の大きなメリットがあるという。

 サンガ営業部の小田原拓也マネージャーは「サンガのスポンサーはBtoB(企業間取引)がほとんどで、よーじやさんのような消費者に届く企業はそもそも少ない。京都を代表するブランドであり老舗。ファンの拡大にも大きく寄与してもらえるのでは」と期待する。

 サンガは新たな連携を考えている。ホームゲームやイベントの時によーじやが展開するカフェに出店してもらったり、来季に向けてコラボ商品を開発したりする計画が進む。

 國枝社長は、お気に入りのパトリック選手のユニホームを着てホームゲームに駆けつけている。ゴールドスポンサーであればVIP席で観戦することもできるが、一般席に座って声援を送ることもある。

 5月3日、サンガがホームの川崎フロンターレ戦で敗れた後、自身のツイッターを更新し、「なんかよくわからへんけど死ぬほど泣いてしまいました。 今日はどうしても勝ちたかった!!」とコメント。客席で号泣している自分の写真もアップした。

 社内でアウェー中継の観戦会も企画した。こうした活動を自分のSNSで発信すると、サンガのファンやサポーターから想像を超える反応があり、サンガに関わる人たちの輪や温かさを早速実感している。

 「30歳を過ぎて本気でのめり込むものが見つかった感じです」

 「サンガの支援を長く続けていくためには会社を大きくしないといけない。会社が成長すればサンガへの支援額も上げていける。スポンサーでいることが、私たちも成長できる一つのモチベーションになる」と共存共栄の道すじを思い描く。

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