過酷すぎてうつ病になる人続出!?…倍率300倍、朝5時から待って一瞬で不合格 ブロードウェイ目指し、300以上のオーディションを受け続けた女性の思い

宮城 杏 宮城 杏

世界中からトップクラスのパフォーマー達が集結する、エンターテインメントの最高峰「ニューヨーク」。憧れの街ニューヨークにある有名な大通り「ブロードウェイ」にはたくさんの劇場があり、今やミュージカルの代名詞となっています。しかし、栄光の舞台に立てるのはごく一部の人たちのみ。輝かしいステージの裏側には、多くの夢破れた人たちの存在が。ブロードウェイでミュージカル俳優を目指していた吉村さんもその一人でした。精神を病む人も多数いたという過酷な当時の状況を振り返ってもらいました。

オーディション会場から始まる熾烈な戦い

私がミュージカルの舞台を目指したのは、4才の時に初めてミュージカルをみたことがきっかけです。その後高校時代までに、オーディションなどを受けていくつかの舞台に出演させていただきました。大学時代にミュージカル『RENT』を鑑賞すると「本場アメリカでミュージカルに出演したい」と一念発起。大学卒業後、夢を叶えるべくニューヨークへ留学を決意しました。

「目指すはブロードウェイの大舞台!」と思っていたのですが、舞台へ立つまでの道のりは想像以上に難しいものでした。日本で行われるミュージカルのオーディションのほとんどは書類審査があり、その後対面オーディションが行われます。

しかし、ニューヨークではオーディションは全て対面式で実施。イチ早くオーディション会場に赴いて、サインアップした順でみてもらえるというスタイルが一般的なのです。

オーディションでは、たった1つの役に300人以上の人が列を作ることもザラにあります。特に人気のオーディションにはサインアップの人数制限が設けられている時もあり、中には朝5時近くから並ばないと受けられないオーディションもありました。

待ち時間が長いのも特徴で、2〜4時間待つのは当たり前。時にはオーディションが始まるまで約6時間も待機していたこともありますね…。ちなみに、友人の中には8時間近く待ったという経験者もいます。

待ち時間の長さもさることながら、出遅れてしまうとせっかく会場へ辿り着いたのにオーディションすら受けられずに受付時間が終わってしまうこともあるのは衝撃でした。

冷酷すぎる!?…見た目だけで不合格にされる審査スタイル

無事お目当てのオーディションにサインアップ出来たとしても、全員がオーディションを受けられると言うわけではありません。

ニューヨークのオーディションは本当に過酷だと思ったのは「タイプアウト」というオーディションのスタイルです。

「タイプアウト」とは簡単に言えば、受験者のルックスだけをみる一次試験。オーディションをする前に10〜15人くらいずつ1列に並べられ、1人ずつ「Yes・No」を告げられます。「Yes」と言われた人はオーディションを受ける事ができますが、「No」とされた人は受けることができません。つまり見た目だけでみて「ピンとくるか、こないか」のオーディションなのです。

最初にタイプアウトを経験した時は本気で凹みました。せっかく並んだのにオーディションを受けることすらできないなんて…。

見た目だけでオーディションが受けられるか決まってしまう厳しい現実。日本の常識からすると冷酷とも思えるほど、本場のオーディションが過酷だということを目の当たりにしました。

そもそもブロードウェイに出られない!?

さらにブロードウェイのミュージカルに出演するためには、オーディション以上に難しい難題が立ち塞がっていました。

ブロードウェイの舞台に立つためには「エクイティ(全米俳優組合)」と呼ばれる舞台俳優の協会に所属する必要があったのです。そして、今はルールが改正され緩和されましたが、コロナ禍前まではエクイティに所属するにはアメリカ国籍かグリーンカード(永住権)を持ってい必要がありました。

私は渡辺直美さんなども取得している「アーティストビザ」を保持し活動していました。しかしグリーンカードを取得するには、大きな舞台に複数出演したうえでスポンサーを獲得するなどの条件が必要だったため、私の実績では取得に至らなかったのです。

実際に1度、大きな舞台の最終オーディションまで行ったことがありますが、そこで出演の条件として出されたのがエクイティへの所属でした。しかし私の保持するアーティストビザでは、エクイティの所属条件に至っていません。そのためブロードウェイの舞台には立つという夢を叶えることが出来ませんでした。

あの時は人生でこんなに泣いたことはない、というほど泣き明かしました。夢まであと一息だったのに…と。

最終的に違う作品でブロードウェイより規模の小さいオフ・ブロードウェイの舞台へ立つことが出来ました。ですが、今でも当時の悔しかった気持ちは晴れていません。

オーディションに落ちるのが仕事

私たちミュージカル俳優は、舞台に立つことよりもオーディションを受ける回数の方が多いのが実状。私はニューヨークで合計300本以上のオーディションを受けましたが、受かったのはたった6本のみ。毎日毎日受けては落ちての繰り返しでした。

過酷がゆえに、うつ病になってしまう人もたくさんいて…。最近連絡が取れないな?と思っていたら、心神喪失し実家に帰ってしまったという友人も1人や2人ではありません。

かくいう私も、徐々にニューヨークにいることが辛くなってしまって…。ロサンゼルスへ引っ越すことを決意しました。

しかしこれが功を奏したようで、ブロードウェイの規模には及びませんが西海岸にも数多くのシアターがあり、たくさんの演目に出演することができました。

私と同時期からオーディションを受け始め、今もニューヨークで挑戦し続けている友人は2〜3人。他の仲間たちは実家に帰り結婚をしたり、ダンスや音楽の先生などにシフトチェンジし第二の人生を歩んでいるようです。

私自身もコロナ以降は舞台から離れ、子供に音楽を教える先生をしています。音楽も練習・挫折と自分との戦いが多いもの。音楽を通してチャレンジし続けることの大切さを子供達へ伝えていけたらと思っています。 

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◆吉村さん(仮名)プロフィール
幼少期からクラッシックバレエを習い、合唱団にも参加。母親が大のミュージカルファンで、初めてミュージカルをみたのは4才の時。高校の時より数々のミュージカル作品に出演し、東京の音楽大学へ進学。当時映画化されたミュージカル「RENT」の鑑賞をきっかけに、「日本だけでなく、本場アメリカでミュージカルに出演したい」と一念発起。大学卒業後、夢を叶えるべくニューヨークへ留学。約7年間ブロードウェイの舞台に立つ夢を目指して邁進する。コロナ以降、子供へ音楽を教える先生として教鞭を取っている。

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