昨年5月に就任したユン政権が、日韓関係改善にとって最大の懸念事項だった元徴用工の問題で大きな打開策を発表した。朴振外相は3月上旬、元徴用工の訴訟問題で、韓国大法院による判決で確定した日本企業による被害者への賠償を韓国側が肩代わりする解決策を発表した。事実上、これは韓国側が日本へ歩み寄った形で、既に韓国野党など国内からは強い反発が出ている。
ユン政権は発足当初から、ムン前政権の外交姿勢からの転換を図り、対北では融和政策から日米韓3カ国の結束を強める政策に舵を切った。ユン政権は米韓合同軍事演習を再び活発化させ、2月下旬には北朝鮮による核兵器使用を想定した合同の机上演習「拡大抑止手段運営演習(TTX)」を米国で実施し、3月13日から23日にかけても大規模な合同軍事演習を予定している。
また、ユン大統領は就任してから、岸田総理にアプローチを取り続けてきた。ユン大統領は昨年6月にスペイン・マドリードで開かれたNATO首脳会合に参加し、その際、岸田総理にアプローチし短時間ながらも言葉を交わし、岸田総理は「厳しい日韓関係を健全な関係に戻すために尽力してほしい」と伝えたという。また、9月下旬、国連総会出席のためニューヨークを訪れていた両者が30分ほど懇談し、日韓関係改善のため双方が努力していくことで一致した。日韓の首脳が対面で一定の時間をかけて協議するのは2年9カ月ぶりのことだった。さらには、11月中旬、ASEAN関連首脳会議に出席するためカンボジアを訪問した両者はここでも会談を行った。
この間、ユン政権は早期に日韓関係の改善を図るため率先的に行動した一方、日本側はユン政権をどこまで信頼していいか深く注視していた。しかし、時間が経つにつれ、日本側にはユン政権の関係改善に向けての気持ちや行動は本物だとの認識が徐々に強くなっていったと思われる。そして、その延長線上に今回の韓国側からの打開策があり、岸田政権も早速韓国との関係改善に動き出した。3月半ばには、ユン大統領が東京を訪問して岸田総理と日韓首脳会談を開催し、両国首脳が互いの国を定期的に行き来するシャトル外交も再開されるとみられる。また、ユン大統領の訪日に合わせて韓国の財界人たちも日本を訪れ、経済面でもさらなる関係強化が見込まれている。
最後に、日本側はユン政権の韓国を今日どう捉えるべきか。日韓の関係改善は米国も強く望んでいることでもあり、中国や北朝鮮、ロシアといった専制主義的国家に直面する日本としては、民主主義パートナーとして韓国と関係を強化することは戦略的に重要だろう。今後は韓国との関係を密にし、経済や安全保障、テクノロジーなど様々な分野で重層的な関係を構築していく必要がある。
一方、構えも必要だ。韓国の大統領任期は1期5年であり、ユン政権の残りは4年あまりである。それ以降は新たな大統領が就任するが、ユン政権の方向性を継承する政権か、ムン前政権を継承する政権かは分からない。要は、今日のスタンスが根本的に転換されるリスクが日本にはあるのだ。また、イミョンバク政権時、当初は実利を重視する日本との関係は比較的良好だったが、2012年8月にイ大統領が竹島を訪問したことで日韓関係は急速に悪化した。支持率の低下などが影響し、ユン政権が突如方向性を転換させるリスクは排除できない。日本はその可能性も視野に入れ、韓国との関係を強化していくべきだろう。