先日いつものようにユニクロを徘徊していると、店内放送でヒートテックにまつわる心温まるエピソードが紹介されているのに気がついた。なんとなく耳を傾けていたところ、「遠足前日、母にウインナーを買ってくるよう頼んだら、間違えてインナーを買ってきた。でも寒かったので結果オーライ」といった内容のエピソードが読み上げられ、思わず「ホンマかいな」と天井のスピーカーを二度見してしまった。すみませんユニクロさん、これ何ですか?
ヒートテックは「薄いのに暖かい」ことでおなじみのユニクロの高機能インナー。ユニクロは11月10日を「ヒートテックの日」としているらしく、私が店内で耳にしたのは、昨年11月10日から12月4日までの間にTwitterで募集した中から選ばれた「ヒートテックエピソード」の優秀作品の紹介番組だったようだ。ちなみに案内役を務めていたのは、ドラマ「silent」での切ない好演も記憶に新しい俳優の鈴鹿央士さんである。
グランプリ1作品、準グランプリ9作品、入選100作品は全て、ユニクロのサイトで見ることができる。グランプリに輝いたのは、「両親の誕生日はともに12月。プレゼントは毎年父にレギュラーコーヒー、母にヒートテック。先日父とお酒を飲んでいると少し言いづらそうに『あの…俺も…母さんと同じ…アレでいいけど…』と。珍しく父の本音が聞けた日でした」。ヒートテックを欲しがる父親の可愛さもさることながら、家族の仲の良さを言外に匂わせるさりげない筆致が実に巧みである。
そして私が耳を疑ったあのウインナー話(準グランプリ作品)の全文も読むことができた。
「スキー遠足前夜。母に『明日遠足だからウインナー買ってきて』と頼んだ。すると買って来たのがまさかのインナー。もう笑うしかなかった。だが結果的に歴史的な寒波が来てインナーは大活躍。母の勘違いに脱帽した出来事だった」
実は準グランプリ作品の中に、この手のエピソードはまだ他にもある。
「高校生の時、バレンタインで人気の男の子にチョコではなくヒートテックをあげたら告白成功した」
「『先生!ママは今日ヒートテック着てるけど、僕はまだエアリズム!』と受け持ちの保育園児に自慢された」
「夫の親戚はエベレスト登山のガイドをしているネパールの少数民族で、ヒートテックを10万円分購入して配ったら喜ばれた」
…などなど。
これを鈴鹿央士さんが落ち着いたトーンで淡々と朗読するのだからたまらない。ヒートテックというアイテムを通して、世界の様相が少し違って見えてくる…と言ったら言い過ぎだろうか。(確か冬山の登山にヒートテックは不向きだとされているはずだが、とりあえずここでは気にしない)
その放送によると、鈴鹿央士さんの一番のお気に入りは「日本一の星空を見たくって思いきってひとりでツアーに参加した。2月の阿智村の心細さの中の極寒も上下のヒートテックとホテルで貰った焼き芋でポッカポッカ!地面に寝転がって降るような星々を堪能!」という入選作品らしい。
直接ユニクロに聞いてみよう
ユニクロのPR担当者に話を聞くことができた。ちなみに、応募総数は非公表という。
—グランプリや準グランプリなどは何を基準に選定したのでしょうか。
「これまでヒートテックが皆様の冬の生活に寄り添ってきたことを感じていただけるような生活実感を感じられるものや、オリジナリティ溢れるものなど、様々な観点で選定させていただきました」
—中には創作ネタのようなものもあるように感じましたが…?
「お客様の実際のエピソードを募集させていただきました」
ユニクロ側は「全て実話」という見解だった。
—店内で放送し始めてからの反響や手応えは。
「予想以上に多くの反響をいただいております。実際に店内放送を聞いていただいたお客様が更にSNSでコメントを発信をしていただくなど、ご来店いただいた方以外にも反響が広がり大変嬉しく思っております」
調べてみると、伊集院光さんが自身のラジオ番組でヒートテックエピソードが「超面白い」と言及したこともあるようだ。担当者によると、ユニクロ店内での放送は2月末までの予定。今後の展開については「ヒートテックに限らず、こういったお客様への感謝企画は引き続き検討していきたい」とのこと。ヒートテックエピソードの傾向と対策を分析して、次に備えます。鈴鹿央士さん、待っていてください。