水揚げ日本一の鳥取 1匹でも1杯でもないカニの数え方 「平べったいから」「魚やイカと区別するため」「松葉にちなんで」由来に諸説あり

山陰中央新報社 山陰中央新報社

 カニの水揚げ量日本一を誇る鳥取県では、カニを数える際に少し変わった呼び方をしている。全国的には1匹や1杯と数えることが多いが、鳥取県では市場関係者を中心に、ほとんどの人が「1枚」と呼んでいる。なぜ「1枚」と呼ぶのか調べてみた。

  「窃盗被疑者の逮捕 被疑者はベニズワイガニ22枚を盗んだもの」-。鳥取県内の警察署から、事件発生を報道機関に知らせる広報文が届いた。島根県出身の記者は、見慣れない「枚」の表記に戸惑った。新聞表記では、動物は原則「匹」を使うが、カニを1杯と呼ぶことは知っている。「枚」と表記されているのを見て最初は間違いではないかと思った。

 鳥取市出身の50代記者に聞くと、逆に「枚が普通だと思っていた。昔、カニを売り歩く行商が『3枚で千円』とよく大きな声で言っていた」と話した。鳥取県では住民にとっても「枚」の呼称が当たり前のようだ。 

 県の資料でも「枚」表記

 鳥取県とカニの関係は密接で、カニ漁の時期には「蟹取県」という名称のキャンペーンを展開(9月~3月)し、カニの漁獲量や1人当たりの消費量が国内一であることを売り出している。鳥取県の広報文を見返してみると、キャンペーンやカニの水揚げ量に関する文の中でも、カニの単位は「枚」として表記されていた。公文書で使われるということは、やはり鳥取県内では「枚」が当然と認識されているのだろう。

 鳥取県営の水産物卸売市場を管理する、県境港水産事務所の志村健係長によると、県としてカニの単位を表記する際には基準がある。生きているカニを数える時は匹、販売する際など既に死んでいる時は杯や枚として表記するという。

 その基準に沿うと、カニの窃盗事件では枚と表記するのが適当だ。ただ、水揚げ量の広報文では「水揚枚数」と表記されている。水揚げした段階では生きているカニもいると思われるが、それだけ「枚」が一般的に浸透しているということなのかもしれない。

 志村係長は「枚という呼称が一般的であることは事実だが、明確な由来は分からない」と話した。 

 市場関係者の見解は

 水揚げされたカニを直接扱う市場関係者なら、由来について知っているかもしれない。魚市場に隣接し、水産物販売店12店が並ぶ、境港水産物直売センター(鳥取県境港市昭和町)を訪れた。店頭に並ぶ新鮮なカニの値札にはどこも「1枚~円」と書かれている。カニを袋に入れ「1袋~円」とする店はあったが、1匹、1杯と表記した店は1店舗もなかった。

 各店舗の店員に、なぜ「枚」で表記するのか尋ねてみると、さまざまな意見が出た。「平べったいからじゃないの」「匹より呼びやすい」「魚は匹や本、イカは杯と表記するので、それと区別するためでは」などの声に加え「『松葉ガニ』の語源の一説に、身が松葉のように裂けるから、とある。葉も枚で数えるので関係があるのかも」と、思わず納得しそうな「名推理」も飛び出した。

 ただ、多くは「ずっと昔から枚と呼ぶのが当たり前だったので分からない」とのことだった。中には、県外から電話でカニの注文を受ける際に「鳥取県ではカニは枚って数えるんですか?」と言われて全国的な呼称でないと初めて知った店員もいた。

 また、カニ以外の値札を見ると「するめイカ1盛~円」「サバ1本~円」「ヤリイカ1杯~円」など、店によって違った表記もある。センター内のさんまき漁協直売店の小中栄店長(70)は「値札の表記は各店の判断。ずっと昔からある浜言葉(漁港の方言)を各自で使っているのだろう」と話した。

 形状、呼びやすさ、他の水産物との区別―。市場関係者からもさまざまな推測が飛び交ったが、明確な由来や理由は分からなかった。県外からカニを購入しに訪れて値札の表記が気になった際は、鳥取県ならではの「食の文化」として楽しんでもらいたい。

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