持続可能な未来のタンパク源として、昆虫食に期待が集まっているが、未利用資源・昆虫のポテンシャルはそればかりではない。芋虫、毛虫の糞を、なんと香り高いお茶として飲むことができるのだ。京大生が開発中の、驚きの「虫秘茶」を試飲した。
黄金色の見た目は、お茶そのもの。しかし煎茶杯からは、ふんわりと桜の香り…。しかし、この「お茶」、茶葉に香りをつけたフレーバーティーではなく、桜の葉を食べた毛虫(モモスズメ)の糞なのだ。
虫の糞を煮出して飲用する「虫糞茶」には、実は長い歴史がある。蚕の糞茶は漢方薬として珍重されていて、サクラケムシの糞茶は、昆虫食愛好家の間で親しまれている。知る人ぞ知る珍味だった。
これに目をつけたのが、京都大学大学院農学研究科博士課程でイモムシと植物と寄生蜂の三者系について研究していた丸岡毅さん。きっかけは、桜の葉で育てていたマイマイガの幼虫の糞から、ふと「いい香り」を感じたことだった。糞茶については知らなかった丸岡さん、お湯を注いで飲んでみると、そのお味は、まさしくマイマイガが食べていたサクラの香りが凝縮された「お茶」だった。
香りだけでない。その「お茶」には紅茶にも似たまろやかさがある。「秘訣は植物の成分と、虫の腸内での発酵だと思います」と丸岡さん。芋虫、毛虫(蛾の幼虫)の糞は、食べた葉由来のタンパク質が、消化器官内で発酵したもの、発酵という点では紅茶と同じだが「虫の腸内における発酵は、植物が本来持つ酵素に加え、虫の消化酵素、腸内細菌が関わると考えられますので、一般的な茶の発酵とは一味違うものである可能性があります」。
虫は腸内で茶を作っていたのだ。しかも、彼らにはおいしい葉だけを選んで食べる習性がある。茶葉のハンドピックの天才でもある。
ちなみに、葉しか食べない昆虫の糞には悪臭はない。丸岡さんは、飲用にあたって食中毒などの危険性も調査したが、問題はないとのこと。
植物の香りをピュアに引き出す「茶匠」としての虫
通常のお茶にはない、虫の糞からできたお茶ならではの楽しさもある。
1種類の葉を食べる虫の糞には、植物の香りが凝縮されている。「植物は虫の食害を防ぐために苦みや渋みなどの二次代謝産物と呼ばれる化合物を葉に蓄積します。これこそが茶の旨味に繋がると考えています」と丸岡さん。この香りと虫の個性との組み合わせで、茶の香りや味のバリエーションが色々と楽しめるのだ。丸岡さんは60種以上の組み合わせを試行錯誤し、美味しいものをセレクト。「虫秘茶」と名付けて商品化に挑戦中だ。
そして、雑草とされる植物と害虫とされる蛾の幼虫の掛け合わせからも、おいしい虫秘茶が生まれることがわかっている。雑草や害虫と邪魔者扱いされている生きものにも、活用の可能性がある。「虫秘茶」は、地球上に27万種あるという植物、16万種いると言われる蛾の仲間、ほとんどが「未利用な資源」となっている生命に新たな活用の道を開くかもしれない。
虫がテロワールを表現、「ご当地虫秘茶」の可能性
「植物が昆虫の体内を通る過程で、成分にどのような変換がなされるのか?その結果、糞にどのような成分が残され、どのような健康訴求効果があるか?私は現在、大学院の博士課程に在籍していますが、専門分野である化学と生態学を駆使して、これらの謎を解き明かしていくつもりです」。
始まったばかりの虫秘茶プロジェクト。商品化に向けて、クラウドファンディングに挑戦中。クラウドファンティングは1月末まで実施中。返礼品として、発売前の虫秘茶がいただけるので、お見逃しなく!
■虫秘茶公式サイト https://chuhicha.com/
■クラウドファンディングはこちら→京大研究者が発見--素材は虫の“糞”!?「虫秘茶」を全国に広めたい!