「筋肉は全てを解決する!?」現役医師の「キモい葛藤」が話題 筋肉は病気への勝敗を左右する!

太田 浩子 太田 浩子

 医者になってから、機能や生命の維持に筋肉が大きく影響することを知って、「もしかして筋肉は全てを解決する?…いやまさか...でも...」みたいなキモい葛藤をしているというツイートが3.5万以上の「いいね」を集めて話題です。

「心臓は筋肉だしね」
「年寄りが寝たきりになる程度に筋肉が落ちる速度って異常だもんね…。筋肉がないと野性なら死ぬ!💪」
「トイレに行けるかどうかで人間としての尊厳も守れるぜ!」
などと筋肉が大切なことに同意するコメントのほか、

「僕は統合失調症持ちですけど筋トレすると明らかにストレス耐性上がるし睡眠の質も上がった 結果的に社会復帰しても基本問題なしですし 筋トレの偉大さを実感してます笑」
「両親、自彊術と言う、程よく筋肉つく体操を初めて8年、80代だけど、縄跳び跳べるし、階段は一段飛ばしだし、勿論走れます。夫婦二人ともですよ。」
と、自身や身近な人の体験も多く寄せられています。

 投稿したのは、青森県で臨床研修をおこなう医師2年目の「やわらか(@softymedicalian)」さん。医学の習得に励んでいた頃は「病気を科学的に説明できることをある意味"正義”だと思っていました。なので『筋肉は全てを解決する』は、当時の自分としては受け入れ難く『んなわけねーだろ!笑』と突っ込み前提のネタとして心のどこかで笑っていたんです」と話します。それなのに、臨床現場に出た今は「筋肉はすべてを解決する」かもしれないと揺れるようになったのです。その理由をくわしく聞きました。

──「筋肉はすべてを解決するかも」と思うきっかけがあったのですか?

 医師になって2年近く経ち、少しずつ主治医として患者さんの治療計画を練る機会が増えました。特にご高齢者の患者さんが入院された際は、筋力がなるべく落ちないようにリハビリや栄養介入を行うのですが、それでも入院治療を契機に歩けなくなってしまう人、自分でトイレができなくなってしまう人、自力で食べられなくなってしまう人が多くいらっしゃいます。

 この患者さん、せめてもう少し筋肉があれば...と歯がゆい思いをすることが増える中で、逆に「筋肉があれば解決してしまうのでは?」という考えがふと浮かび今回のツイートに至りました。

──筋肉がもっとあれば、急激な体力や機能の低下をおさえられるかもしれないということですね。医学的にも認められているのでしょうか?

 昨今の超高齢化に伴い、数多くの状況で「筋肉」が注目されていることに間違いはありません。

──わかりやすく、教えてもらえますか?

 代表的な事例として①病気への勝敗を左右してしまう「筋肉」②ありふれた病気の予後を左右する「筋肉」③機能面で大事な「筋肉」があると考えます。

──どういうことでしょう。「①病気への勝敗を左右してしまう『筋肉』」とは?

 人は病気にかかると体が病気と「闘う」モードに移行して凄く消耗します。そういう状況では食欲が落ち、仮に栄養を取っても平時みたいに利用できません。

 ではどうやって生命を維持して闘う武器を用意しているかというと、体の一部、特に筋肉を分解してエネルギーとしたり闘う時に必要なタンパクを合成したりしています。(重症感染症の人は治療中に1日で筋肉が1kg以上落ちるとも言われています。)

 つまり「筋肉がある」→「(ゲームでいう)HPが高い」状況と捉えることもできます。

──筋肉があれば、敵の攻撃に耐えられる力を高く持っている状態ということですね。

 90歳でも筋肉量が十分あり、普段から自分の身の回りのことができるような方だと手術に踏み切ることがある。一方で70歳でもガリガリに瘦せていてあまり動けないような方では、術後のダメージに耐え切れないと判断され手術しないこともあります。これは手術に限らず薬物的な治療でも同様な状況が起こることが多々あります。

 同じ病気、同じ検査結果でも、筋肉量の多寡で病気への勝敗が決まってしまったり、治療選択肢が変わってしまう事が多々あるのです。

──なるほど。では「②ありふれた病気の予後を左右する『筋肉』」というのは?

 筋肉が関係するのは体に大きなストレスがかかる大病に限りません。日本人の3人に1人いる「高血圧症」、その高血圧と関連の深い「心不全」「腎不全」の進行においても筋肉量が大きく関係しています。特に下肢の筋肉は「第二の心臓」と呼ばれるほど全身循環において重要な役割を果たしてます。

 他には、生活習慣が原因の一つとして挙げられる2型糖尿病ですが、薬物治療よりも優先される治療として運動療法というものがあります。運動時にカロリーを消費することが主目的だと勘違いされがちですが、むしろ行き場がなくて血液中にあふれてしまった糖質の「居場所」としての筋肉を増やすことが、大きな目的です。また、筋肉量を増やして基礎代謝が増すことも大切になります。

 つまり全く同じ食事を摂っていても、筋肉があれば様々な病気に罹りにくくなり、病気になってしまっても治療を前向きに考える事もできます。

──筋肉ってすごい…。では、最後の「③機能面で大事な『筋肉』」というのは?

 生きるために動かす筋肉はすごく重要です。当たり前ですが人は動けなくなると一気に機能が落ちます。足の骨折を機に活動量が減り、認知症が発症・進行した...なんて話はよくありますよね。

 筋肉というとマッチョな体幹や手足の筋肉を思い浮かべますが、人間が生きていくためにごはんを食べるための筋肉(咀嚼・嚥下の筋肉)、排泄のための筋肉(尿路/肛門の筋肉)も凄く重要です。食べれないと筋肉量が減ってまた食べれなくなって...みたいな悪循環になりかねません。

──生きていく上での基本的機能は、筋肉によって成り立っているとも言えるわけですね。そして、「筋肉はすべてを解決」するという結論に?

 さすがに筋肉は全てを解決はしません。それは分かってます。が、それでも研修医向けの参考書やコンテンツを漁ると"筋肉は大事"という文言を多数見かけます。筋肉がチラチラ『私大事ですよ』とこっちを見ている気がするんです。しかも少しずつ近づいて。

 研究が進んでいくにつれて、いつか筋肉が全てを解決する状況になったら...いやそんなはずは...でも...もしかして...と葛藤が続いています。

──なるほど。それで「キモい葛藤」になっているとツイートされたのですね。教えていただいて、あらためて筋肉はとても大切だということがわかりました。

 色々話しましたが、誤解のない範囲での結論としては、「治療選択や病気への向き合い方という点で、多くの状況で筋肉はハードルを大きく下げてくれる」ということを皆さんには知って貰いたいです。

■やわらかさんのプロフィール
 青森生まれ青森育ち、青森で臨床研修を行う医師2年目。好物はリンゴ。総合診療科志望で、将来は患者の悩みや生活に寄り添える医師を目指している。医療従事者専用サイト m3.com(エムスリー)で、医学生をテーマにした漫画の企画・編集に携わる。臨床検査技師の妻、ゆるゆる検査技師(@yuru_mt_baby)とは毎日ケンカが絶えない。

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