商店街などに構えた店舗に高齢者を集め、巧みな健康講話などで盛り上げた後、高額な商品を次々に売りつける「催眠商法(SF商法)」と呼ばれる悪徳商法がある。酢や卵などの日用品を安く買ううちに、何十万円もする高額商品を購入させられていた―というケースも。国民生活センターによると、SF商法の相談件数はこの10年間で半減し、年間約千件に。一方で、一度のめりこむと10年以上も関係が切れないまま、支払い額が250万円以上に上った人もいる。
「怪しいからやめてほしいと何度も頼んだのですが、全然聞いてもらえなくて…」。そう話すのは、千葉県で2人の子どもを育てる女性。独居の母親(67)が十数年前から、健康食品をうたう店に通うようになった。酢にオリゴ糖、もずく酢、はちみつ…。ある日、女性が実家に帰ると、見慣れない調味料が並んでいた。「これ何?」と聞くと、「安く買ったの」。卵10個50円などと書かれたチラシに引かれ、訪れたのがきっかけという。
店には、近所の友達と通っているようだった。締め切られた店舗にはパイプ椅子が並び、高齢者がたくさん訪れる。販売員から1時間ほど健康講話を聞くと、目玉商品のオリゴ糖やもずくなどを100円で購入できる仕組みという。女性は、帰るたびに増える健康食品に不安が募っていった。
「結婚祝いで空気清浄機買ってあげようか? 体育館6個分の空気を数時間できれいにできるの」。そんな電話が掛かってきた時には不安が確信に変わった。怪しいと思い値段を聞いても教えてくれないため調べると、20万円以上。ほかにも、電池が入っていないのに置くだけでイオンが発生する手のひらサイズのドーム型の消臭器、オゾンが発生するとうたった浄水器…。数十万円の商品を次々に購入していた。何度も行かないようにと伝えたが、聞く耳を持ってもらえなかった。
後に分かったことだが、母親は初回に訪れた際に住所や電話番号といった個人情報を記入して会員になっていた。店は月4~5回しか営業しておらず、営業日を知らせるはがきが自宅に届いていた。高額商品は、何度も通ううちにおすすめされたという。
今も「腰痛が治る」と言われたサプリを毎月購入し、月2~3万円支払っているといい、「老後のお金や生活が苦しくなるよと伝えても、逆に母が激昂してしまう。人間関係も固定されているみたいで、10年以上もたってしまって、どうすればいいのか分からない」と話す。
本人に被害意識がなく購入を続けている場合、どう接すれば?
国民生活センターによると、SF商法の相談件数は、2012年度は1979件あったが、年々減少して昨年度は1096件に。今年は11月末までに627件だった。相談は被害にあった親族からが半数以上あるという。
でも、家族はどう接すればいいのだろう。「本人に被害意識がなく、生活苦になるまで購入し続けている場合、本人に被害を気付かせるのは難しい」と担当者。非難めいた態度は避け、温かな関係を築いてから、本人の出来上がったリアリティーを壊す必要があると強調する。具体的には、①商品を査定に出すなどして相場を知らせる②類似の被害事例を知らせる③事業者の親切さは販売のためのものであるということを気付かせること。ただ、何年も店に通っている場合、人間関係ができあがっていて、家族からの指摘が善意であっても「叱られている」と感じる人もいるという。そうすると、被害を隠したり、何も知らない人に批判されたくないと反発したりして、店をかばうこともあるという。
そのため、頭ごなしに否定するのではなく、本人が「もしかしたら被害に遭っているかも」といった疑念をつくり上げることが大切。自尊心を傷付けないように気配りしながら話し合い、「ほかの人の話も聞いてみない?」などと、消費生活センターなどの専門情報を教えてもらえる第三者につなぐように働きかけるのも一つという。