海外移住は「かっこいい、すごい」? 憧れだけでは住めないのが現実 北欧移住者「手に職がないと仕事は見つからない」

宮前 晶子 宮前 晶子

「物価が上がっているのに、賃金は上がらない」「金銭的にも社会の仕組み的にも子どもを育てにくい」「自分の持つ資格や今後のキャリアを考えると海外で働くのもありかも」など、日本に不満を抱えてさまざまな理由で海外移住を考える人が増加。特に、北欧は福祉国家としても、デザイン大国としても日本人に憧れられているエリアのひとつです。

そんな憧れだけで移住しても良いのか、現実はいったいどうなのか、34歳のときにスウェーデンに移住して6年経つ日本人のたかこさん(@swedenhoiku)に話を聞きました。

「日本では海外移住に対して “かっこいい”“すごい”と捉えられることがありますが、日本とは異なる習慣や文化がある国で暮らすのが海外移住です。 “私たちはその国にお邪魔させてもらっている”という謙虚な気持ちを持ちつつ、自分はその国にどう貢献できるかを考えることが移住者として必要です」とたかこさんは語ります。

移住を考えるなら、働く場所を決めて!

2016年にスウェーデンに家族で移住するまでは、東京で暮らしていたたかこさん一家。慢性的な残業やワンオペ育児などが当たり前の日常は家族が理想とする暮らしには程遠いものでした。

家族の在り方を模索し、海外移住も視野に入れるようになったのは、夫の当時の仕事の関係でヨーロッパ文化に触れることも多かったため。その結果、縁あって夫のスウェーデンの企業への転職が決定。海外移住に向けて具体的に考え始めてから、8カ月後には移り住むことになりました。

「最近は、我が家のように、スウェーデンの企業に就職して家族でやってくる人が徐々に増えています。日本人の持つ技術が現地でも求められている、という状況です」とたかこさん。

海外移住への関心の高まりにつれ、現地事情を問い合わせる声も増えていますが、働き場所の当てや技術資格もなく、現地に入ってもなかなか雇用にはつながらないようで、たかこさんは「実際、ワーキングホリデーでスウェーデンに来た日本人の方も仕事探しにものすごく苦労されていました」と話します。

「というのも、スウェーデンは移民が多い国で、助けを求めてやって来る人やEU域内から移り住む人がたくさんいます。彼らは、母国語に加え、英語も高いレベルで話せるので、オフィスワークを得やすい。移民庁でビザ申請を行い、許可が出るまで数カ月待たなくてはならない日本を含むアジア圏の人にとっては移住しにくい国だな、とこちらで暮らしてからわかりました」。

子育てのストレスは一切なくなった

言葉の壁については、スウェーデンに移住後、現地の語学学校で学び、できるだけスウェーデン語を使ってコミュニケーションを取ることを心がけ、日本では保険業界で勤めていましたが、今は現地のプレスクールで保育士に。また、スウェーデンの長所として、子育てのしやすさを含めた福祉の充実や理想的なワークライフバランスが筆頭に挙げられますが、その点については正解だったそう「ムダな残業もなく、小学校以上の教育費は無料。子育てのストレスは一切なくなりました」とのこと。

「大人になってから勉強するのはおかしいことじゃない」と数年間働いてから大学に行く人も珍しくなく、「スウェーデンの豊かさは、何歳でも学び直しができる社会であることです。自分のペースで人生を歩めるから、自分で考えて、人生を切り拓いていく人が生きやすいと思います」とたかこさんは力を込めます。

ただ日本のコンビニのように、24時間営業の店がほとんどないため、すっかり便利さになれてしまった日本人にとっては困るかもしれませんが、「必要なものはまとめ買いするなど買い物に費やす時間や労力が減りました。“明日必要なアレがない、コンビニに買いに行こう”ができないと、ないなりに過ごせます」と、移住してからの生活を楽しまれています。

◇  ◇

外務省の「海外在留邦人数調査統計2021年度版」によると、海外に住む日本人は134万4900人。新型コロナウィルスの感染拡大で、全体数は減ったものの、永住者は2003年から増え続けている状況。海外への移住を検討するなら、移住を希望する国の雇用状況などを事前に把握しておくことは必須です。また、移住国の言葉や習慣、文化などへの理解を深めることも大切です。

たかこさん一家のように想定外のことやさまざまな価値観を持つ人との出会いを楽しみながら、自分たちの暮らしや人生を創り上げていく、そんな気持ちが必要です。

また、たかこさんは現在ヤングアニマルZEROで連載中の漫画『北欧ふたりぐらし』(著者:だたろう・白泉社)に取材協力という形で関わっています。移住者として現地の事情についてのアドバイスをされていて、たかこさん夫婦のスウェーデンでの暮らしが作品に反映されているそう。

スウェーデンに移住した新婚夫婦が日本と異なる環境や習慣に戸惑いながら新生活を送るというストーリーで、ミートボールをジャムで味付けしたショットブッレに戸惑いつつもおいしさに目覚めたり、必要書類の受理が遅々として進まない実態にやきもりしたりする様子などが描かれています。

■スウェーデン保育士たかこ@swedenhoiku
■『北欧ふたりぐらし』https://www.hakusensha.co.jp/comicslist/64522/
■だたろう「北欧ふたりぐらし」連載中@datarou_origin

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