飼い主が死去した後も、渋谷の駅前でその帰りを待ち続けた犬・忠犬ハチ公。現在も渋谷駅前のその銅像が設置されており、渋谷のシンボルになっているのはご存知の通り。
この忠犬ハチ公に負けず劣らずの「伝説の犬」が台湾にもおり、今も「神」として銅像が建設され崇められいます。ただし、渋谷の忠犬ハチ公像との違いはその大きさ。渋谷の忠犬ハチ公像は、像全体の高さが162センチですが、台湾版のそれはなんと30メートル。写真の通り、足元の自動車がミニカーにも見えるほどです。
台湾版忠犬ハチ公は、17人の漁師との伝説に由来
この巨大すぎる台湾版忠犬ハチ公が鎮座しているのは、台湾北部の新北市の石門エリアの山間地域。山間と言ってもすぐ近くには海岸があり、この海を舞台にした17人の漁師と台湾版忠犬ハチ公の物語が伝説となり、この地に「神」として崇められています。
そのエピソードは清の時代に遡ります。
17人の漁師と台湾版忠犬ハチ公は、日ごろから寝食をともにし船に乗って漁に出ていましたが、あるとき、大しけで船が沈没。17人の漁師全員が海に飲まれていったそうですが、おぼれた漁師たちの後を追うように、犬も自ら海へと飛び込んでいきました。
漁師たちに忠実だったこの犬が伝説となり、地元では「義犬」として祀られるようになりました。
台湾版忠犬ハチ公は、今日では「くじ運に強い神様」に
まさに台湾版忠犬ハチ公と言うべきエピソードからこの地に十八王公廟という廟が建てられ、「神」として崇められるようになりました。
ところで、この廟は台湾では悪霊を鎮魂する「陰廟」とされており、本来なら特別な用事がない限りあまり近寄らないほうが良いとされています。しかし、その慣習はときを超えて徐々に変化し、今日では「くじ運に強い神様」として崇められることが増え、特に「運気がアップする」と言われる深夜帯を目指して参拝する人もいるようです。
台北中心部からはMRTとバスなどを乗り継ぎ、片道約1時間半ほどの距離感ですが、立地的に自動車がないと行きにくい場所です。それにも関わらず、近年では、日本人旅行者も多く参拝するようになり、台湾の文化に触れられる新名所として静かに注目も浴びています。
台湾では「日本軍の軍艦」や「銀行強盗犯」が神様になった例も!?
台湾の宗教の多様性は、シンガポールに次いで世界2位と言われており、実にさまざまな信仰対象があります。道教、儒教、仏教、キリスト教、神道、ヒンズー教、ユダヤ教、イスラム教などですが、これら数々の宗教が入り混じったものもあります。
特に台湾における道教は「神」と崇める対象の自由度が高く、台湾版忠犬ハチ公のように、その地に根付いた動物や人間や物が、そのまま神様になるケースも珍しくありません。中には「日本軍の軍艦」が神様になったり、「銀行強盗犯」が神様になったりした例もあります。
コロナ禍以前から続く台湾ブームは今なお一定の支持がありますが、美味しい台湾料理やかわいい雑貨だけでなく、台湾の素顔の一つとなるこういった独特の宗教や慣習もまた、外国人である私たちにとっては実に興味深いものです。僭越ですが、拙著『パワースポット・オブ・台湾』(玄光社)では、こういった台湾ならではの、興味深い聖殿や神々ばかり216を紹介しています。ぜひ興味のある方はチェックしてみてください。