若旦那はIT企業戦士 新幹線通勤やめてテレワーク 旅館業で感じた「テンプレはダメ」は人事採用でも生きた

「どこでもオフィス」ヤフー社員に聞く#5

金井 かおる 金井 かおる

 国内の大手IT企業が続々と働く場所を選ばないロケーションフリー化に舵を切っています。ヤフー株式会社は2014年にオフィス以外も含め、働く場所を自由に選択できる「どこでもオフィス」をいち早く導入。その後、制度の改正を重ね、2022年4月から居住地を全国に拡大、飛行機出社も可能となりました。まいどなニュースは、この制度を使って「自分らしく働く」ヤフー社員に話を聞きました。

「通勤時間がまるまる自分の時間に」

 ヤフー株式会社で人事の仕事に従事する角谷(すみや)真一郎さん(36)。2012年に入社後、東京オフィスでの勤務を続けていましたが、「旅館業を営む高齢の母親をサポートしたい」という思いから、2017年に地元である新潟県・越後湯沢に転居。東京まで毎日、新幹線通勤し、余暇を使って旅館業を手伝う日々を送っていました。2020年、リモートワークの回数制限が撤廃されたのを機に、テレワークを選択。現在は新潟を拠点に、社員の新規採用や障がいを持つ社員の業務開拓や業務管理などを行います。

──人事の仕事はオンラインでも可能ですか。

「問題なく進んでおります。私たちのチームは発達障がいをお持ちの方が10数名、通勤が難しい重い身体障がいをお持ちの方が10数名、働きながらパラリンピックを目指すパラアスリートが4名。30人近い大所帯なんですが、オンラインの働き方になって以降、退職者や離職者はおりません」

──1日の主なスケジュールは。

「始業が9時。9時から9時30分までメールやチャット、スラックで連絡事項をチェックし、業務を準備します。9時30分から50分まではメンバーとの顔合わせ、朝会を行います。朝起きられているか、どんな表情をされているか、変わりはないかなどを確認をします。雑談を含めたコミュニケーションをはかり、1日のスタートを切ります。その後、10時から12時までは業務。お昼休憩を1時間挟んで、13時から17時45分までが業務ですね。メンバーの方の退勤確認をして、私も17時45分に退勤します。以前、新潟から東京まで新幹線通勤していた時も同じタイムスケジュールです」

──通勤をやめて、何か変化は。

「2つあります。1つは余暇が持てたこと。通勤していた頃は、朝7時には家を出ないといけなかったが、今は通勤時間がまるまる自分の時間になりました。その時間を自己研鑽に使ったり、健康促進のために運動したり、生産的なことに使えていて幸福度が上がりました。自己研鑽とは、業務に関連する資格を取ったり、英語の勉強です。オンラインのコーチと勉強したり、自学自習したり。通勤に使っていた7時から9時までの間を使うことができた。成果としては、TOEICの点数が伸びまして、2019年は680点だったものが、2021年に受けたら850点でした。この働き方だからこそできたことです」

「もう1つは、精神的な充実感が増えました。大好きな故郷、越後湯沢の大自然の中で、大事な家族と過ごせることで、精神的に安定し、より充実した日々を送れている実感があります」

──そこまで愛する越後湯沢の魅力は。

「『びっくり箱』みたいな感じなんです。3000万人の東京圏の大都会から電車に1時間乗っただけで雪が3メートル積もるようなところに行けるというのは、これは何かの魔法だと思うんですよね。ニューヨークとかロンドンとかパリではそんな光景は味わえない。これは自然が織りなす奇跡の町だと思っていて、そこに歴史が折り重なった、発展して、ここしかないものがいっぱいある、びっくり箱みたいな町だなと思っています」

家業の旅館の手伝いが、ヤフーの仕事にも役立った

──地元に戻り、お母さまの反応は。

「母は70を過ぎているので、そばに暮らして、雪かきや雪国での生活をサポートしてもらえて安心していると言ってくれます。越後湯沢は雪が深いので、高齢者が単身やそれに近い状態で暮らすのはしんどいんですよね」

──角谷さんも雪かきを。

「雪かきや雪下ろしも可能な範囲でやっています。実は母が旅館『ホワイト・イン・スズヤ』を経営しており、私も妻と一緒に旅館の仕事を手伝っています」

──ヤフーの仕事と並行して?

「家業なので小さい頃から知らないお客さまがいらっしゃる環境が普通でしたし、3歳の頃からお皿洗いを手伝っていました。好きなんでしょうね(笑)。現在は12月の終わりから3月まで、ヤフーの業務とは全く関係のない土日の余暇を利用しています。お客さまのご飯作り、チェックイン、チェックアウトの対応、会計、客室掃除、フロア掃除、お風呂掃除、なんでもやります。日中は暇なので自分の余暇を過ごしながら、夜は次のお客様のご対応をする、といった形で、ヤフーでの本業に支障が出ない範囲で、ボランティアとして手伝っています」

──旅館の仕事がヤフーの業務に役立ったことは。

「お客さまの反応に敏感になりました。ここ数年、若いお客さんはテンプレート式な、団体バスに乗っけられて、全てお膳立てされた旅行は好まなくなっているのではないかと感じています。自分だけのオリジナルな旅をしたい人が多い。これが人事の採用の仕事でも活かせており、学生さんが何を求めているかが分かります。例えば、これまでの典型的な社会人向けの言葉ーー『課長になって、部長になって、給料が上がっていくよ。会社がデカくていいよ』など、テンプレートみたいな決まり文句が通用しなくなった。『あなただけのオリジナル』という言葉に反応を示す学生さんが多い。『あなたのこの経験や資質があるから、会社でこうやって活躍できるんじゃないですか』とお伝えしたり。旅館の仕事でお客さまに接するからこそ、さまざまな局面での学生との対話の質が上がっている実感がありますね」

──今後の目標は。

「何はともあれ、私はヤフー株式会社の一員なので、ヤフーの一員としてしっかり成果を上げること。会社の発展にしっかり貢献することがまず第一の目標です。その上で、地方に暮らす子ども達に『多様な働き方があるんだよ、ITを使えばふるさとから出て行かなくても世界中の人とビジネスができるんだよ』と言うことを背中で示してあげたいと思いますね」

▼「どこでもオフィス」拡充 ヤフーは2022年4月、社員の通勤手段の制限を緩和、居住地が全国に拡大された。これまでの同制度では、国内なら好きな場所で働けることになっていたが、居住地に関しては、出社指示があった際、午前11時までに出社できる範囲に限定されていた。制度拡充とともに午前11時ルールが撤廃され、国内であればどこでも住めるようになった。出社は電車、バス、新幹線に加え、特急や飛行機、高速バスも可能になった。交通費は15万円まで、どこでもオフィス手当や通信費補助計1万円、社員間の懇談会費5000円(いずれも月あたり)。希望者にはタブレット貸与。対象は全国の正社員、契約社員、嘱託社員の約8000人。

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