車椅子に乗った状態での外出時に、エレベーターに乗れず困ったという経験がツイッターに投稿され、7万6000件もの「いいね」が寄せられるほど、大きな反響がありました。投稿した車椅子のYouTuber渋谷真子(@s_maco_)さんに、当時の様子を聞きました。
エレベーターで建物の2階から1階に降りたかった渋谷さんですが、人が多くて乗れず、何機も見送り15分程度待つことに。トイレに行こうとしていたそうですが、脊髄を損傷した影響で排泄障害になり我慢することができず、間に合わなくなってしまうのではないかと緊張感のある時間を強いられたとのことです。
渋谷さんは、異なる階に行きたい時、車椅子に乗っている人はエレベーターしか手段はないが、階段やエスカレーターも候補にあることを指摘し、「そっち(階段)使ってほしいなぁ。って言うのはわがままなのかな?」と投稿を締めくくっています。
投稿には「わがままじゃないです。車椅子優先!! 健康で歩ける人は、下りて歩く。譲り合いが大切」「こういう場面に出くわしたら、今度から降りて譲るようにしよう。これは気づかなかった 恥ずかしい、、」と賛同する声、「私も車椅子なので、その気持ち、よくわかります」「めっちゃ気持ちわかります トイレ我慢してる時はマジきつい…」と当事者からの共感の声もありました。
また、「歩けるなら階段を使ってって気持ちよく分かります。でもこういうことが何度かあるのですか?」という質問に渋谷さんは「何度かではなく日常的にありますし、車椅子ユーザーなら誰しもが経験し、解決してほしい一つです」と回答、「誰も声かけしてくれないの?」という質問には「そういうのは0に近いくらいほとんど無いですね」と答えていました。
一方、「言いたいことは理解できますがエレベーターに乗ってる方に伝えないと…」というコメントも。障害がある人がそうでない人に声をかけさえすれば解決するのか。山形県・福岡県の2拠点生活を送りながらYouTuberとして活動する渋谷さんに、当時の状況と、車椅子に乗る人と同じ社会で生きるために、必要な視点について話してもらいました。
「外出時の困難などを少しでも知ってもらえれば」
投稿したできごとがあったのは三連休の中日で、渋谷さんは友人とJR博多駅の駅ビルを訪れていました。エレベーターが4基あり、そのうち3台はたくさんの人を乗せて昇降し、1台は動いている様子はなかったそうです。
――投稿には肯定的なものだけでなく、否定的なリプライもありましたね。
「リプライの中で『なるほどな』と思った1つは、私が上に行くのか下に行くのか待っているのかがわからないから、何もできなかったというものでした。私は下の階に行きたかったんで、下から来たエレベーターには反応しませんが、上から来たエレベーターには扉の近くに行くので、意図を感じ取ってくれるんじゃないかと思っていたんです。
しかし、上の階から降りて来た人が私を見て『この人は上行きを待っていたのかもしれない』と思えば、自分たちに関係ないよな、という考えに至ってしまうのもわからなくもないなと思ったんですよね。
意思表示がないから、わからないから降りない、関係ないという感情が芽生えてしまうこともあるとは思うんです。ただ、本当に何も意識もしていないという可能性もあったと感じてしまいました」
――山形と福岡を行き来しているとのことですが、地域によって対応に差は?
「山形ではエレベーターが混んでいることはほとんどないのですが、都市部、福岡であったり、大阪であったり、混んでる地域に行くと、100%と言っていいほどエレベーターを待ちます。その時に『どうぞ乗ってください』とお声がけを頂くことはほとんどありません。エレベーターに乗っているときに、わざわざ扉の先のことは考えないのかなと、個人的には思っています」
――今回とは逆で、車椅子での外出中に助かったことはありますか。
「車椅子で坂道をのぼるのが大変なんですよね。電動とは違い、私は自分の腕で車輪をこぐタイプの手動の車椅子なので、とてもしんどいです。ただ、反対方向から来る人に対しては、わざわざ来た道を戻ってほしいとは言えません。
とはいえ後ろから来る人に声を掛けるのも大変。自分も一生懸命こいでいる中で、背中越しに『すみません』って言わないといけないので。声掛けをしたいけどなかなか難しい状況の中で、後ろから『お手伝いしますか』と声を掛けてくださる方がいらっしゃる時は大変うれしいです」
――そういったことはたびたびあるのですか。
「割合的には少ないって感じていますね。動画配信では、『どう声を掛けていいかわからないから見て見ぬふりをしてしまう』というご意見を頂くことが多かったので、やはり声をかけづらいのだと思います」
――頼みやすい声の掛け方があれば教えてください。
「『大丈夫ですか』って聞き方をされると、とっさに『大丈夫です』って言ってしまいます。ですので、坂道だったら『後ろから押しますか』とか『お手伝いしますか』とか言ってもらえればうれしいし、車椅子に乗っていると高い所にあるものが取れないので『取りますか』って言って頂いたら、『お願いします』って言いやすくなると思います」
――状況を見て、具体的に提案した方が良いのですね。
「以前、私のツイッターをフォローする車椅子ユーザーさんに、『声を掛けてもらうのってうれしいかどうか』のアンケートを取った時があるんです。ほとんどの方が『うれしい』と回答されました。しかし、一部は『嫌だ』という人もいて、自力で成し遂げたい思いがあるというか、弱者というふうに扱われている感があってすごく嫌というか。『必要であればこちらから声をかけます』という人もいました。
そういう方もいらっしゃるので、『声をかけて断られた経験があって、もう声かけたくありません』とメッセージを頂くこともあるんですよ。いろんな人がいるのは障がいあるなしに関係ないことなので、断られようが断られまいが、大変そうな人がいたら声をかけるという空気感が常にある世の中であってほしいです」
――読者へのメッセージをお願いします。
「『声をかけてくれたら降りますよ』というリプもすごく多かったのはありがたいです。本来であれば言葉を交わさずしても、譲り合いってのができたら一番いいのかもしれません。ただ、難しいと思いますので、車椅子やベビーカー、内部疾患などで見た目にはわからない方々含めエレベーターを必要としている側が、『すみません。乗りたいのでスペース開けて頂けますか』と伝えた場合に、快く『わかりました』と降りてくれるのであればうれしいなと思います。
今回の投稿で『わからなかった』『知らなかった』という言葉も本当に多かったので、障がいがある人たちの生活はなかなか見えてこないものだと痛感しました。私自身も4年前に車椅子生活になったばかりで、以前はそういった視点はありませんでした。いろんな障がいがある人がSNSで発信している時代ではありますので、ぜひ、これをきっかけに、そういった情報や思いを見て意識してくださるだけで、また違うのかなと思います」
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坂道や階段など、車椅子に乗る人にとってさまざまな「バリア」がある街なか。困っている人に気づき、声をかけることで「バリア」が軽減される可能性があります。そして、渋谷さんの話から、車椅子に乗っている人も、健常者の様子をよく見ているということがうかがえることから、いかにも周りに無関心だったり、見て見ぬふりしているようだったりしない方が声をかけやすいのではないかと思えました。
渋谷真子さんはYouTubeチャンネル「現代のもののけ姫Maco」で、日常生活やリハビリの様子、他の障害者へのインタビューや茅葺き職人(見習い)としての仕事っぷり、クレー射撃やハンドバイクの挑戦を撮影した動画などを公開。「障害があっても楽しく豊かに送れる人生を目標に、楽しいことや役に立つことを発信しているので見て頂けたらうれしいです」とのことです。
■渋谷真子(@s_maco_)さんのTwitter https://twitter.com/s_maco_
■渋谷真子(s.m1c)さんのInstagram https://www.instagram.com/s.m1c/
■渋谷真子さんのYouTubeチャンネル「現代のもののけ姫Maco」