この子はあまり長く生きられないかもしれない―。獣医師から、そんな言葉を向けられる病気を、もし愛猫が患ったとしたら、飼い主は現実をどう受け止め、ニャン生を支えていけばいいのか。そんな問いを自分に投げかけるきっかけをくれるのが、動物看護師の典佳さん。東京都江戸川区にある猫専門動物病院「マローキャットクリニック」で働く典佳さんは、先天性心疾患「房室中隔欠損症 (AVSD)」である愛猫ノイアーちゃんと共に生きられる一瞬一瞬を大切にしています。
避妊手術前の検査で愛猫が「房室中隔欠損症」だと判明して
典佳さんは、亡き愛猫くぅちゃんの介護を機に、動物看護士の資格を取得。
黒猫のカイザくんを新たに迎えた後、フリーカメラマンの太田康介さんが震災後に福島へ通い、保護したノイアーちゃんと里親募集サイトを通じて出会い、家族になりました。
その後、保護猫で長毛の黒猫・ミュラーちゃんも迎え入れ、暮らしは賑やかに。しかし、平穏な日々に暗雲が。避妊手術を受けようと、ノイアーちゃんの術前検査をしたところ、心雑音が発覚しました。
「今振り返れば、同居猫と遊んでいた時、ノイちゃんだけ呼吸が早く、疲れるのも早かったです」
詳しい検査をしたところ、生まれつき心臓の左心室と右心室を分けている壁に穴が空いている「房室中隔欠損症 (AVSD)」であることが判明。
循環器の専門医に診てもらいましたが、「あまり長くは生きられないかもしれない」と、1歳まで命が持たない可能性があることを告げられ、大きなショックを受けました。
猫の「心房中隔欠損症」は人間と同じく、成長するにつれ、穴が塞がっていくこともあり、塞がらない場合でも、他の器官が正常であれば、普通に日常生活を送ることは可能。しかし、心臓に負担がかからないよう、配慮が必要です。
ノイアーちゃんの場合は3カ月に1度は通院し、超音波検査と血液検査も受けることに。おうちでは利尿剤と血管を広げ、血圧を下げる効果があるACE阻害薬を毎日2回、服用するようになりました。
「投薬は負担になりにくいよう、少し硬めの投薬用ちゅーるに薬を入れています。あと、部屋には頭数+1個となる4個のお水を置いています」
利尿剤によって、ノイアーちゃんはトイレが近いため、典佳さんはトイレも頭数+1となる計4個設置し、頻度が多くても綺麗なトイレで排尿できるよう、配慮。
また、特に乾燥する冬は咳が出ないよう、部屋の湿度が50〜60%になるように加湿器で調節。過度な負担を心臓にかけないために遊びは1日5分までにし、その代わり、しっかりとスキンシップを取って、ノイアーちゃんが満ち足りた日々を送れるようにサポートしています。
「ノイちゃんは尻尾の先が丸まっているので、たまにおもちゃが引っかかり、ひとりで大騒ぎしていて、かわいい。ちゅーるが好きすぎて興奮し、投薬の時に肛門腺が出ちゃうところも愛らしいです」
そう語る典佳さんは他にも、一緒に暮らす中でたくさん、ノイアーちゃんの“かわいいところ“を見てきました。
例えば、ノイアーちゃんは猫用おやつのカニかまが大好きで、寝る前と出かける時に袋を咥えながら持ってきて、ちょーだいアピール。典佳さんに寄り添うのも好きで、夏でも必ずくっついて、夢の世界へ。
そうした姿に、典佳さんは目を細めています。
実は典佳さん、ノイアーちゃんの病気が発覚した後、ミュラーちゃんを「口腔内肉腫」により、2歳で亡くし、小さな命の尊さをより痛感。
だからこそ、一緒に過ごせる限りある時間を精一杯大切にしたいと考えています。
「ノイちゃんとは、もしかしたらお別れが早くきてしまうかもしれないですが、投薬治療や定期的な検査をしながら、愛情をいっぱい注いでいきたいです」
典佳さん宅には最近、猫カフェから迎えたクルルちゃんも仲間入り。
ノイアーちゃんはクルルちゃんやカイザくんによく毛づくろいをし、積極的にスキンシップを取っているのだとか。
「3匹とも黒猫ですが、ノイちゃんは他の猫よりも小さくて、おしゃべり。カイザは、男の子で大きめ。クルルは長毛なので、意外と見分けることができるんです」
そう語る典佳さんは同じく、心房中隔欠損症の愛猫を持つ飼い主さんに、こんな激励を送ります。
「投薬治療を続けて、12歳過ぎている猫ちゃんもいるので、おうちの猫ちゃんにも奇跡が起きることを信じて、お互い頑張りましょう」
厳しい余命宣告を受けたノイアーちゃんは今年の夏、5歳に。よく遊び、よく食べ、よく眠る生活を謳歌し続けています。
そのニャン生や最大限のケアをしながら愛猫と生きる典佳さんの想いに触れると、最期まで命と向き合うことの大切さが、改めて心に刺さります。