「EVタイカン」と「カレラ911」 対極の2台、合わせて3000万円の新旧ポルシェを乗り比べ

小嶋 あきら 小嶋 あきら

911シリーズとタイカン

 ポルシェというとスポーツカーの代名詞と言って差し支えないくらい有名ですが、代表的な911と呼ばれるモデルがあります。1964年に登場した911はタイプ901と呼ばれ、リアに水平対向6気筒の空冷エンジンを積んでいました。以降、911はタイプ930、964、993、996…と進化し、途中エンジンが水冷になったり、車体が大きくなったり、トランスミッションがオートになったりしながら、911はいまもポルシェの中核です。

 さて、そんなポルシェから2020年にEVがデビューしました。タイカンというモデルです。タイカンは全長4963mm、全幅1966mm、重さ2.2トンとかなり大柄なクルマですが、馬力に換算して435馬力の強力なモーターを積んでいます。

 そんなタイカンと、1986年式のタイプ930の911カレラに乗せる幸運に恵まれました。

 街中の試乗ですから、もちろんポルシェの本領を発揮するようなシチュエーションではありません。さらにドライバーが素人の筆者ですから、もしかしたらポルシェにとっては「徐行運転」に近いようなものかもしれません。ただ、普通の人が普段使いで乗ったらこんな感じ、という辺りをお伝えしたいと思います。

これほしい、と思った911カレラ

 まず最初は911カレラ、左ハンドルのマニュアルミッション、3164ccエンジンです。緊張しながらクラッチを踏み込みます。結構重くてストロークが深いです。そしてシフトを一旦2速に入れて1速に入れます。シンクロメッシュの関係でこの方が入りやすい、とお店の人のアドバイスです。シフトもストロークが大きめで、これはゆっくり送り込むような操作がいいそうです。この感覚、「バターをナイフで切るような」と表現されることがあります。

 重いクラッチに少しぷるぷるしながら慎重に繋ぐと緩々と走り出します。後ろから聞こえる乾いたエンジン音に、いま自分は911を運転してるのだ、という実感があります。ハンドルは重いけど癖はなく、ブレーキも重いけど確実に利く感じです。車幅も1650mmしかないので不安はありません。5ナンバーサイズの車体に大きなエンジンですから、やっぱり余裕があります。踏めば踏んだだけ加速しそうです。また、乗り心地から感じるのは、硬いボディがちゃんとした足回りの上に乗ってるな、という感覚です。街中を20分ほどの試乗でしたが、これを自分で買ってずっと乗ってたいな、という気持ちになりました。空冷ポルシェはいまや高騰して買える値段ではないのですが。

これすごい、と圧倒されたタイカン

 次に、いよいよタイカンです。右ハンドルのオートマティックですから、その点ではとてもお気楽です。ただし横幅が一気に30センチ以上広くなってますので、そこかなり気を使います。また車両価格2000万円という辺りもプレッシャーがかかります。

 ブレーキを踏みながらスイッチオン。ゆっくりとブレーキを緩めると、緩々と動き出します。このクルマ、エンジン式のオートマティックみたいにクリープするんですね。もしかしたらこれはテスラみたいに設定でオンオフできるのかも知れません。

 とにかく無音で超スムーズに走るタイカン。全てが画面になったメーター周りも未来っぽいです。またモードをスポーティな方に切り替えると、なんかモーターが頑張ってる感じの音がします。これは本当のモーター音でしょうか、それとも敢えてそういう感じの音をスピーカーから出してるのでしょうか。どうもこいつ、どこまでが演出でどこからが本気というか本音なのかよくわからないです。

 エンジンだと、アクセルを踏む→エンジンが唸る→加速する、という手順を踏むのですが、EVはアクセルを踏むといきなり加速するので感覚的により速く感じる、そういう部分はあるのかと思います。店の人は「アクセルを深く踏み込めばワープします」と言いますが、この街中で2000万円をワープさせるのはとてもこわいのでやめときました。ただこのほぼ無音で、頑張ってる感じなしに加速する感じはなかなか異質というか、新しい感覚です。

 確かにすごいけど、これは欲しいとかそういう次元を超えてしまったクルマだな、と感じました。

 左ハンドルと右ハンドル、マニュアルとオート、空冷エンジンとEVというまるで対極にあるような2台。さっと乗り換えてさほど違和感を感じなかったのは、やはりどちらもポルシェだったからでしょうか。作りに一貫したポリシーがあるから、とか。いや、もしかしたら単に筆者が鈍感だったから、かもしれませんが。

 今回の試乗は、10月15日に行われたイベント「わくわくポルシェ塾」のひとこまでした。とにかく貴重な体験を提供いただいた、ヤナギオートサービス様に感謝いたします。ありがとうございました。

 2台合わせて3000万円の試乗を無事に終えて、ポルシェショックを少し引きずりながら、静かにベスパで帰ってきました。

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