ショッピングセンターの閉店で、突然消えた地域の名物「お地蔵様」 一体どこへ?…探してみると、思わぬところで人気者に

山陰中央新報社 山陰中央新報社

 2021年に閉店した松江市黒田町のショッピングセンターの正面玄関前にあった大きな地蔵が、店舗の解体工事に伴って姿を消した。どこに行ったのか、地域で親しまれた「お地蔵様」のその後を追った。

 スーパーは松江市北部の中核的商業施設だった「キャスパル」。建物を所有する協同組合松江ショッピングプラザ(現在は解散)と、核店舗のスーパー、フーズマーケットホック(安来市赤江町)が建物の老朽化などを理由に賃貸契約を更新せず、2021年4月に閉店した。現在は建物がすべて取り壊された。

 地蔵は高さ約3・5メートル(台座を含む)で、顔の横で手を合わせて穏やかにほほ笑む姿で立つ。店舗が営業していた頃は地蔵前に花やジュースが供えられ、地域住民から愛されていた。閉店後の撤去工事が始まった頃に突如姿を消し、地域でも地蔵の行方が話題になった。

 情報紙に有力情報

 地蔵の行方について調べていると、有力な情報が見つかった。

 山陰中央新報社が月2回発行する、生活応援情報紙「りびえ~る」7月号の「教えて」コーナーで「キャスパルにあったお地蔵さんがどこに行ったか教えて」と読者から投稿があった。別の読者から「お地蔵さんは雲南市の『心の駅 陽だまりの丘』に安置されております」との回答があった。

 陽だまりの丘といえば、巨大迷路ドラゴンメイズで有名。早速現地へ確認に向かうと、確かに地蔵がそのままの姿で置かれ、そばには「ハッピー地蔵さま」と書かれた看板が立っている。

 地蔵の前には「HAPPY(ハッピー)」という英文字の形をした大きな建造物があり、近くには撮影用のスマートフォンを置く台が設置され、新たな観光スポットになっているようだ。

 陽だまりの丘の田中隆理事長(79)は「地蔵さんを粗末にするのは良くないので、引き取らせてもらった」と笑った。田中理事長は昔、ショッピングセンターで開かれていた縁日でヨーヨー釣りや金魚すくいといった出店を統括し、協同組合やホックと付き合いが長かったという。長年のよしみで、地蔵を引き受けることが決まったようだ。ちなみに、「りびえ~る」に回答を送ったのは陽だまりの丘のスタッフだそうだ。

 昔の約束果たす

 田中理事長によると、地蔵はキャスパルの前身「アピア」(2004年閉店)を当時運営した協同組合の理事長が、安来市下坂田町の彫刻家、清水洋一さん(72)に依頼して作られ、アピアオープンの1981年11月ごろからあったという。

 田中理事長はアピアが閉店した頃から、協同組合の関係者に「地蔵をどこかに動かさないといけないならわしが引き取る」と伝えていた。アピア閉店の時、建物は変わらなかったため地蔵はそのままになったが、キャスパルが閉店した際には建物を解体することになった。田中理事長の話を覚えていた関係者から「引き取ってもらえないか」と打診があり、約束を果たすため陽だまりの丘に置くことを決めたという。

 地蔵前に建造物や撮影台を設けたのは、観光客の注目を集めるため。既に地蔵は人気のようで、取材中にも地蔵と撮影する観光客がいた。大阪府東大阪市から友人と旅行に訪れた会社員、市岡萌々菜さん(24)は「(地蔵の)ポーズがかわいかった。HAPPYという文字も映えるので、若者に人気が出ると思う」と早くもファンになったようだった。

 地蔵のモデルは制作者の…

 田中理事長の紹介で、作者の清水さんに話を聞くと、さらに詳細が分かった。清水さんは約40年前、ホックの前身、原徳チェーンの社長夫婦の依頼で地蔵をつくった。「咲(わら)い地蔵」と名付けて本社前に置かれると、愛らしい地蔵の姿を見た各業界の人から依頼が入り、米子市朝日町の加茂川沿い用と、アピアの店舗用に同じ地蔵をつくった。現在、陽だまりの丘にある地蔵は「咲い地蔵」としては三つ目の作品となる。

 地蔵のモデルは当時、幼かった清水さんの娘。母親に物を買ってほしいとねだる様子を見て、清水さんは「邪念がなくかわいらしい、地蔵にぴったりの表情だ」と思い立ったという。地蔵のポーズには心温まる裏話があった。

 清水さんは「人がたくさん訪れる場所に新たに置いてもらえて、作者として冥利(みょうり)に尽きる。陽だまりの丘でもかわいがってもらいたい」とほほ笑んだ。

 突如、行方が分からなくなったお地蔵様は、新天地で大事にされていた。田中理事長は「地蔵は人の心を和ませる。訪れた人に日本人としての『心』を教えてくれる、陽だまりの丘のシンボルになってほしい」と願った。

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