保護した猫は授乳中だった
ノアくん(3歳・オス)は野良猫が産んだ子猫で、妹が1匹いる。2019年8月、保護主の息子さんが外出先の駐車場にいたさび猫を見つけ、とても人懐っこい猫だったので近くの人に尋ねたら、このあたりを根城にしている野良猫だということが分かった。「うちに来るかい?」と尋ねて抱っこしたら、なんの抵抗もしなかったので連れて帰ったという。すぐに獣医師に診てもらうと、「この猫は授乳中です」と言われた。
「母猫を待つ子猫がどこかにいる!助けなければ!」。保護主は慌ててさび猫をキャリーケースに入れて、元いた場所に戻った。子猫を見つけるには母猫を放つしかない。しかし、一度放った母猫が戻ってくるだろうか。そんな心配をしながら子猫を探し始めたら、キャリーケースから母猫が飛び出て、民家に向かって走って行ってしまった。
すぐに追いかけたが民家の敷地には入れない。既に名前もつけていたので、「みっちゃん、出ておいで」と呼ぶと、意外にもみっちゃんは「ニャア」と言いながら出てきてくれた。もう日も暮れていたので、その日は母猫だけ連れて帰ったという。
翌日は保護主に代わって娘さんが子猫を捜しに行った。みっちゃんにはリードと首輪をつけていたが、スルッと抜けてしまい、みっちゃんは再び民家の敷地内に消えた。塀越しに覗いたその時、確かに「ミーミー」という子猫の鳴き声がした。民家のインターホンを鳴らしたが留守のようだった。その頃には保護主も駆けつけ、隣人に事情を説明。家主が戻ったら連絡をくれるよう頼んでおいたという。
そしてその夜、無事に親子猫を保護することができた。母猫だけでなく、子猫たちも人懐っこかった。子猫たちは猫風邪をひいていたが、ノアくんは軽症だった。
先住猫レオンくんとの相性が心配
近畿地方に住むねこ福さんは、以前、保護主と同じ職場に勤めていた。職場には犬を飼っている人が多かったが、唯一保護主は犬と猫を飼っていたので、よく相談に乗ってもらっていた。
8月、ねこ福さんのところに保護主から連絡があり、ノアくんをもらってくれないかと言われた。母猫のみっちゃんと猫風邪をひいている妹猫は飼うつもりだという。当時、ねこ福さんはわけもなく引っ掻いてくるレオンくんという大きな猫を飼っていたので、相性が心配だったが、内心「うちで良ければ引き受けたい」と思った。
「もともともう1匹猫を迎えたいと思っていたのですが、レオンとの多頭飼いは難しいので、里親募集サイトを見るくらいに留めていたのです。そんな時にノアの話をいただきました」
ねこ福さんは夫と話し合い、ひとまず子猫を見てみることにした。みっちゃんと2匹の子猫はとても仲睦まじく、先住犬や先住猫とも仲良く暮らしていた。ねこ福さんは、3週間後、ノアくんが生後2カ月を過ぎたらトライアルを始めることにした。
「保護される子猫の中には、親とはぐれてしまい、1匹で必死に生き抜いてきた子も多いと思います。生後40日ほどで親兄弟とはぐれることなく温かい家庭に保護してもらったノアは、本当にラッキーボーイだと思います」
ノアは専属セラピスト
2019年9月、ねこ福さんはノアくんを迎えた。先住猫のレオンくんは一人っ子気質のお殿様。案の定、突然やってきたノアくんには猛反発だ。ストレスで吐き、ねこ福さんたちが触ろうとすると怒り、威嚇し過ぎて一時は声が出なくなった。一方、ノアくんはというと、レオンくんが怒っていてもお構いなし。遊んでもらおうとぐいぐい迫っていった。
「どうすれば猫たちが仲良くなれるのか、レオンにもノアにも申し訳ない気持ちでいっぱいでした。でも少しずつレオンがノアを許すようになり、2カ月が経つ頃には一緒に留守番ができるようになりました」
その後、2匹は追いかけっこやプロレスをするほどに仲良くなり、ねこ福さんは人間が介入しなくても、猫には猫のルールがあると知ったという。
一時はレオンくんとノアくんの関係に悩んだねこ福さん。似た経験をしている人が発信している情報を片っ端から読んだ。そして「私の経験も誰かの役に立つかもしれない」と、2020年4月にブログを開設。さまざまなコメントをもらえるのがモチベーションにつながっているという。
ノアくんは人の気持ちに寄り添ってくれる猫。ねこ福さんが具合が悪い時、ぴたっと身体をくっつけてくれる。
「『心配かけてごめんね。大丈夫だよ』と言うと、本当に元気になった気になれるんです」
夫も日々の疲れで溜まったストレスが、ノアくんを撫でているとポロポロと剥がれ落ちていく感じがするという。
「そんなノアは、我が家の大切な家族の一員、専属セラピストです」