「老いたあなたも美しかった」…懸命に生きた高齢グマの訃報に、追悼のツイートあふれる 献身世話した動物園スタッフの思いは

茶良野 くま子 茶良野 くま子

「老いたあなたもほんとうに美しかった」
「ふんばって歩いていた姿、忘れない」
「ふらついてもボロボロでもカッコよかった!」
「とうとうツイートでしか会えなかった…」

神戸市立王子動物園で飼育されていた高齢のクマが今年6月に亡くなり、訃報を伝える公式ツイートには追悼と労いのコメントが連なりました。ウマグマの「ボー」、30歳。老衰でした。

高齢ゆえ足腰が弱くなっていたボーは、展示場でふらついて倒れそうになったり、次の一歩がなかなか出ずに進めなくなることも。展示される日も減り時間も不定期。コロナ禍の臨時休園も重なり、たまたま見ることができた来園者がSNSで情報発信すると、「姿が見られて安心した」と多くの反響があり、動画からは「がんばって」と応援する声が聞こえることも。毛並みも乱れ、展示場で熟睡すれば「倒れているのでは!?」と心配されるほどに年老いた一頭のクマが、なぜここまで多くの人を引き付けたのでしょう。獣医師で飼育展示係長の谷口さんに聞きました。

ウマグマは、ピョンピョンと跳びはねる様子が馬に似ていることから付いた名前で、チベットヒグマとも呼ばれます。ヒグマの地域亜種で、中国奥地の青海省、チベット高原などの山岳地帯に生息。ボーと、メスの「マー」は1994年、中国天津市動物園からペアで来園しました。

―やっと歩いている、という姿が印象的でした

 「2016年頃から足腰が弱ってきて、『加齢に伴う神経の障害(炎症)による下半身の麻痺』と診断しました。ボーのために展示場の擬岩を撤去して段差をなくしたり、プールにスロープを設置して出入りしやすくするなどしました。外へ出られなくなってからは、竹のトングなどでをエサを1つずつ口の前に置くなど、食べやすいようにしました。エサから十分な水分が取れない時は、点滴により水分補給もしていました」

-食べ物は何が好きでしたか?

「トマトですね。何よりも大好きでした。寝たきり状態になってからは、水分補給のために大好きなトマトをたくさんあげていました。リンゴ、ブドウ、バナナ、オレンジ、干し柿、クマ用ペレット、ロールパン、煮サツマイモと人参も美味しそうに食べてくれました」

 -猛獣で、大きな体で、ケアは大変かと

「今年4月には寝たきりの状態に。床ずれや尿やけの防止のため、バスマットやゴムの材質の床材を使用しました。体が汚れてしまうのでボーが好きな温水で体を洗ったり、寝室内にシートベルトで作ったネットと電動ウインチを設置して、時々ボーの体を反転させ、床ずれができないよう努めました」

「寝たきりのままでもよく食べていましたが、亡くなる1週間前から徐々に食欲がなくなり、食べる量が減っていきました。とうとう何も食べなくなった翌日、静かに息を引き取りました」

ーボーはどんな性格でしたか

 「温和な優しい、のんびり屋さんでしたね。展示場に出ると呼んでもなかなか帰ってこないことも多かったです。人に対して威嚇したこともないような、本当に優しい性格の持ち主でした」

ボーとマーはかつては仲良く同居していたものの徐々にマーがボーを威嚇するような行動を見せるようになり、お互いが相手にストレスを感じているようだったため同居を解消したとのこと。「ボーとマーの間に生まれた子は三重県内の動物園で飼育されています。2頭の間に生まれた子は、その1頭のみです」と谷口さん。

 「外に出なくなると、『ボーは元気ですか?』と聞かれることが度々ありました。亡くなって、別れを惜しむファンのみなさまからたくさんの献花をいただいたのを見て、多くの方に愛されていたとことをあらためて実感しました」と話す谷口さん。

「足腰が弱っても外に出たければ出ていき、うまく歩けずなかなか帰って来れなかったり、寝たきりになっても、普段と同じように食べる気力を持ち、生きようとしていました。ボーに一言贈るとしたら…『よく頑張ったね』と言ってあげたいです」

(記事内のボー、マーの画像などは「桜の桃と梅さん」提供)

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