国内の大手IT企業が続々と働く場所を選ばないロケーションフリー化に舵を切っています。ヤフー株式会社は2014年にオフィス以外も含め、働く場所を自由に選択できる「どこでもオフィス」をいち早く導入。その後、制度の改正を重ね、2022年4月から居住地を全国に拡大、飛行機出社も可能となりました。まいどなニュースは、この制度を使って「自分らしく働く」ヤフー社員に話を聞きました。
2021年2月、故郷の岩手県盛岡市に戻った山本佐恵さん(37)。18歳で進学のために家を離れ、就職後はヤフー東京本社に勤務し、住まいは横浜でした。カレンダーアプリの事業責任者などのキャリアを重ねる一方、「盛岡に帰りたい」という気持ちをずっと秘めていたといいます。
「きょうだいがいない私はいずれ戻らなければという気持ちはずっとありました」という山本さん。40歳前後での転職や実家に比較的近い八戸センター(青森県八戸市)への異動希望などを思案していたころ、耳にしたのが「どこでもオフィス」の拡充。すぐさま応募しました。
ー離れて暮らしていると、お達者でもご両親が気になりますね
「『30歳になったら帰るから』と北海道の大学に進んだのですが、その約束は反故にしてしまいました(笑)。東日本大震災の発生後はしばらく連絡が取ることができず心配でした。盛岡市内は沿岸部のような深刻な被害には見舞われず、自宅は物が落ちた程度でしたが、声を聞くまで安心できませんでした。地震や津波に限らず、台風で東北地方に被害が出た時も『盛岡は大丈夫かな』と思いますし、新型コロナウイルスが流行した際も気がかりでした」
ーご家族は
「印刷業を営んできた父母は60代でまだまだ元気ですが、母方の祖父母は施設に入っています。父方の祖母は認知症で、叔父叔母と一緒に暮らしています。介護が大変な叔父叔母に少しでもゆっくりしてもらおうと、おばあちゃんは月1度はわが家に来てもらっています。いずれが介護が必要な年齢を迎えることを考えて、昨年9月に新築を建てました」
ー将来のことも念頭に置いた住まいなんですね
「1階で生活が完結できるような家にしました。玄関にはスロープ、トイレには手すりを付けています。すべてとはいいませんが、家の中はできるだけ段差を解消しました。母は腰やひざが少し悪いので、両親はとても喜んでくれました」
山本さんが暮らす盛岡市は県中央部に位置する人口約29万人の城下町です。県庁などの行政機関が集まる県の中心地で、周囲を山々に囲まれた盆地に北上川に雫石川・中津川が合流します。石垣が美しい盛岡城跡公園やレトロな意匠の洋風建築が残る街並みが広がります。市街地南部の「中央公園」は広い敷地に美術館や博物館などが集まったおすすめの散策スポットです。 鉄道はJR東北本線や東北新幹線・秋田新幹線も利用できます。
ー環境が変わりましたが、仕事への影響はいかがですか
「働くことへの考え方は変わっていません。コロナ禍で横浜でリモートワークだったころは一人暮らしだったこともありオンとオフの切り替えが十分でなかったように思います。実家で家族と一緒にご飯を食べたり何気ない会話をすることで自然とそれができていると思います。たとえ、嫌なことがあっても引きずらなくなりました。事業責任者として東京に出社することもありますが、自宅から盛岡駅まで車で10分ほど。そこから2時間半ほどで東京です。あまり距離のことは感じません」
ー気分転換は
「東京のころは1日1万歩を意識していましたが、コンパクトな便利な盛岡では意識して歩くようにしています。近くに大きな公園があるので早朝に親子3人でおしゃべりしながら散歩したり…。こちらは夏でも30度を超える日はあまりないので過ごしやすいです。それと猫を飼い始めました!」
ーいいですよね!わが家も保護猫2匹を迎えています
「母方の実家から2匹を譲り受けました。メスなので戦国時代の浅井三姉妹から名前をいただき、茶トラを「茶々」、三毛を「江」と名付けました。家族みなが2匹にメロメロです。きっと業務効率が上がっています!」
▼「どこでもオフィス」拡充 ヤフーは2022年4月、社員の通勤手段の制限を緩和、居住地が全国に拡大された。これまでの同制度では、国内なら好きな場所で働けることになっていたが、居住地に関しては、出社指示があった際、午前11時までに出社できる範囲に限定されていた。制度拡充とともに午前11時ルールが撤廃され、国内であればどこでも住めるようになった。出社は電車、バス、新幹線に加え、特急や飛行機、高速バスも可能になった。交通費は15万円まで、どこでもオフィス手当や通信費補助計1万円、社員間の懇談会費5000円(いずれも月あたり)。希望者にはタブレット貸与。対象は全国の正社員、契約社員、嘱託社員の約8000人。