お寺の経営、企業経営とは一線を画した戦略が必要 築地本願寺の場合

北御門 孝 北御門 孝

前回に続いて宗教にまつわるテーマで、今回はお寺の経営について取り上げてみたい。

築地本願寺(東京都中央区)は、安永雄玄宗務長(会社でいえば子会社社長だとご本人が注釈)が就任して以来、改革の真っただ中にあり、「カンブリア宮殿」などにも取り上げられ、注目を浴びている。築地本願寺のような400年の歴史を持つ名所(本堂の建物等は重要文化財)であっても毎年数億の赤字が続けばいつかは留保金を使い果たしてしまうという危機感のもと、企業経営では当たり前のマネジメントつまり顧客創造のためのマーケティング&イノベーションや財務諸表のための複式簿記をお寺の経営に導入し、2015年から「築地本願寺のサバイバル戦略」を策定して現在にいたるまで実行に移してこられている。

ただ、そこは一般の企業とは違って抵抗勢力もあったようだが、安永氏は僧侶でありながら宗教家としては特異な経歴の持ち主で、銀行マンやコンサル会社経営を経ておられるだけに経験に裏付けされた改革案に抵抗勢力も屈したのではないか。2023年の「親鸞聖人御誕生850年立教開宗800年」にむけて門徒を10万人にすべく活動を進めておられる。ここではアクションプランの詳述は省くがご興味のある方は書籍「築地本願寺の経営学」著者:安永雄彦(東洋経済新報社)でご確認いただきたい。

築地本願寺と同じ浄土真宗本願寺派の広島県福山市にあるお寺のご住職がYouTubeにあげている動画を拝見したのだが、築地本願寺の経営戦略にはわくわくするものの、一般末寺には到底真似のできない経営戦略であり、その理由はリソース(経営資源)不足もあるが、一番のネックは檀家制度の存在だという。これまで長きにわたって檀家あってのお寺であったのは間違いのない事実だ。

一般末寺の経営は、独立採算なのだが宗門のなかで足並みを揃えて活動していくことが求められる。さもないとお寺同士で檀家を取った取られたの話に成りかねないというのだ。どうすればよいのか苦悩を隠せない様子の動画であった。ちなみに、その内容までは窺い知ることはできないが、一般社団法人「お寺の未来総合研究所」がサポートしている寺院サポート講座「お寺のビジョン作成研修」という人気講座もあるようだ。

「歎異抄」(第六条)で親鸞聖人は「親鸞は弟子一人ももたず」と言われたとある。親鸞聖人が御在世のころから弟子や門徒の獲得は経済的にいっても重要な意味をもっていた。しかしながら親鸞聖人は「阿弥陀如来からたまわった信心なのに自分が与えたもののように、取り返そうとでもいうのか。」と離れていく者に対してそれも「縁」だと受け入れていたという。現下のお寺の経営についても、浄土真宗でいえば根底に親鸞聖人の教えが流れている以上、やはり企業経営とは一線を画した戦略が必要なのだろう。このことは他宗派、いや仏教にとどまらず、すべての宗教法人に自分事として、考えていただきたいところだ。

参考:「聖典セミナー歎異抄」 著者:梯實圓(本願寺出版社)

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