ずっと見守ってきた孤独な野良猫 子猫を産んでも早死ばかり わが家に迎え入れやっと元気な子を産んでくれた

ふじかわ 陽子 ふじかわ 陽子

猫にも猫なりの社会があり、コミュニケーション能力如何で、幸か不幸かが決まることがあります。特に野良猫の場合、餌場の情報は仲間からの情報が大事ですから、コミュニケーション能力が高い野良猫ほど生存率が上がっていきます。

長崎県に住む野良猫のアカちゃんは、コミュニケーション能力が低い猫。時々、他の猫と一緒にいることがあっても、「仲間」として扱われている様子はありません。体のいい使い走りのよう。この様子に、Tさんは5年ほど前から気付いていました。

気の毒に思ったTさんとTさんの母親は、愛猫みやびちゃんのご飯をアカちゃんに少し分けることにします。家の前にご飯皿を置いてやると、他の餌場を知らないアカちゃんは毎日通ってきました。時折、他の猫を連れてくることもありましたが、その後、連れ立って来ることはありません。

孤独な野良猫のアカちゃんは、時々出産をしました。生まれた時は嬉しそうにTさん家族へ子猫を見せに来るのですが、一目で分かる障害を持っている子ばかり。残念なことに、1匹も大きくなる子猫はいませんでした。子猫が亡くなる度、アカちゃんの表情は険しくなっていきます。

2021年6月のこと。Tさんの家で暮らしていた猫のみやびちゃんが、18歳で虹の橋のたもとへ旅立ちました。みやびちゃんが家にいるのが当たり前になっていたTさんは、心に大きな穴が…。大きな悲しみに包まれ、息ができないほど。その時、険しい表情のアカちゃんのことを思い出したのです。

「あの子も子猫を亡くした時、悲しかったんだ…」

Tさんはアカちゃんを家に迎え入れる決断を下しました。2021年の冬のことです。自分の支えになってほしい、また自分がアカちゃんの支えになりたい。アカちゃんにその想いが通じたのか、思いの外すんなり家へ入ってきてくれました。一緒に最近行動を共にしている推定2歳のキジ白の女の子・チロちゃんも保護。

チロちゃんは撫でさせてくれる猫で、すぐ病院にも連れていけました。各種検査と避妊手術を済ませ、順調に家猫ステップを踏んでいきます。一方、アカちゃんはというと、絶対に触らせてくれませんから病院へ連れていくことができません。Tさんは頭を痛めました。もう長生きできない子猫を生ませたくなかったからです。

さてどうしようかと思案していた2022年3月21日早朝、どこからともなく赤ん坊の声が聞こえてくるのです。よくよく耳をすませると、家の中から赤ん坊の声が聞こえるのです。なんと、アカちゃんが出産をしているではありませんか。1匹の三毛猫がアカちゃんのそばにいるのです。

Tさんはビックリしつつも、すぐ布を敷いたキャリーケースを入れてやり子育てしやすい環境を整えます。でも心配でした。また障害のある子猫だったら、アカちゃんの悲しみはもっと深くなるだろうと。

そんなTさんの心配をよそに、子猫はすくすくと成長。今では窓枠に1匹でぴょんと飛び乗れるぐらいに大きくなったんです。初めてアカちゃんが、元気な子猫を生んだことにTさんは感無量です。

子猫は桜の季節に生まれたことから「さくら」と名づけ、TさんやTさんの母親に可愛がられています。Tさんのスマホのデータは、さくらちゃんの写真ばかり。日々の成長の記録は欠かせません。

実はTさん、亡くなったみやびちゃんの写真をほとんど撮っていなかったんです。そこにいてくれる尊さに気付いていなかったから。記憶だけでは、どんどんと楽しい時間は消えていってしまいます。みやびちゃんの分も記録を残したいと考えています。

これからまた、悲しい出来事があるかもしれません。しかし、楽しい記憶を呼び戻す「記録」があれば、必ず立ち直ることができます。猫にそれが通じるかは分かりませんが、未来のためにTさんは記録を続けていくでしょう。

アカちゃんとさくらちゃん、チロちゃんと過ごす日々は、何よりも尊いものですから。

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