フィンランドとスウェーデンのNATO加盟申請で見えた…EU、NATOが一枚岩では無いという現実

「明けない夜はない」~前向きに正しくおそれましょう

豊田 真由子 豊田 真由子

ロシアのウクライナ侵攻を受け、フィンランドとスウェーデンが、西側軍事同盟であるNATOへの加盟申請をしました。前回は、“軍事的中立”を保ってきたフィンランドとスウェーデンについて、なにがどう現在につながっているのかを振り返り、欧州における安全保障体制の大きな転換について考えました。 

今回は、ウクライナ侵攻を巡るトルコやハンガリーの対応から、この危機下において、EUやNATOすら一枚岩では無いという現実や、インドの姿勢、イスラエルや中東の安全保障状況から、進行する西側諸国の秩序への挑戦や、刻々と変わりゆく国際秩序について、考えてみたいと思います。

EUやNATOも一枚岩では無いという現実

▼トルコ

今回のフィンランドとスウェーデンのNATO加盟に、現時点でトルコは反対しています。

トルコは、クルド人問題で、テロ組織とみなすクルディスタン労働者党(PKK)のメンバー等を北欧諸国がかくまっていると非難し、クルド勢力の一掃を目指したシリア侵攻に対し、フィンランドとスウェーデンがトルコに武器輸出禁止という制裁措置を導入したことに反発しています。

トルコは、NATOには1952年に加盟していますが、一方、EU加盟については、1987年に申請をしたものの、キプロス問題や、経済力や司法・人権保護上の問題があること、イスラム国であること、エルドアン大統領の権威主義体制への懸念等が議論となり、暗礁に乗り上げています。EUとトルコ間にある東地中海のガス田権益を巡る対立も解決していません。

トルコは、ロシア、ウクライナ両国と、それぞれ一定の関係を保ってきています。トルコは、NATO加盟国でありながら、ロシアから武器を購入していますが、ウクライナを擁護する姿勢を取り、当初は仲介にも乗り出していました。

私はジュネーブで、国連加盟国の交渉に参加していて、トルコというのは難しい国だなぁ、という印象を持っていました。トルコは、歴史的・地政学的に複雑で、ヨーロッパ、アラブ、ロシアの間に位置し、絶妙なバランスを取りながら、どの国に対しても臆することなく(ときに軍事力を使いながら)、“大国”であろうと、戦略を駆使します。

エルドアン大統領は、EU加盟手続きについて、トルコを“ウクライナと同様に”扱うよう求める発言をし(3月1日)、「NATO加盟国には、我々の懸念を理解し、配慮し、最終的には支持することを期待する」(5月18日)と述べました。

おそらく今回、トルコは、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟に、なにがなんでも最後まで反対を貫く、ということではなく、EUに加盟させてもらえない不満等もあり、自国の存在感をアピールするとともに、クルド人問題への協力等の要求を、欧州側に飲ませるための条件闘争をするのだろうと思います。

▼ハンガリー 

トルコほど話題にはなりませんが、ハンガリーの動きも懸念されます。

ハンガリーは、1999年にNATOに、2004年にEUにも加盟しています。しかし、長年に渡りプーチン政権と親密であるオルバン首相は、今回のウクライナ侵攻について、国連のロシア非難決議に賛成はしたものの、ウクライナへの軍事支援や、原油禁輸措置を含むロシアへの制裁には反対しています。

それどころか、4月3日に圧勝した総選挙の勝利演説でオルバン首相は、ウクライナのゼレンスキー大統領を、「今回の選挙戦で打ち勝たなくてはならなかった『敵』のひとり」と述べました。ロシアから輸入する天然ガスの代金をルーブルで支払う方針も表明し、EUの方針に背き続けています。

EUは、ロシア産原油の禁輸方針についてハンガリーに翻意を促すため、ロシア産エネルギーへの依存から脱却するための金銭支援を、ハンガリーに行うことについて協議を行っています。(カネで解決・・・) 

EUに反旗を翻しつつ、EUの中に居続けるというハンガリーの存在は、軍事的・政治的・経済的に、強い結束が求められる今、EUにとって大きな障害となっています。

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NATOもEUも全会一致を採っているので、加盟国の中で一国でも反対した場合、新たな国の加盟や、当該制裁措置の実現は難しいということになりますので、何とか妥協点を探っていくことになります。共通の価値を体現・志向するからこそ、共同体を構成しているはずのEUやNATOですら、この危機下においても一枚岩では無い、という国際社会の複雑さ・難しさを、改めて痛感します。

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世界には、ウクライナとロシア、どちらの味方もしないという国が、実は多い

4月25日、ウクライナ外務省がツイッターで感謝の意を表した国の中に、日本が含まれていなかったということが話題になりましたが、私はその論点よりも、世界の中で、「明示的・積極的にウクライナから感謝をされる行為を実際に行っている国」が、西側諸国(NATO30カ国のうち26カ国+スウェーデン、フィンランド、オーストラリア)の他は、2カ国(アゼルバイジャン、エジプト)しかない、ということを、改めて重く受けとめました。

私たちは、とかく「西側諸国の視点」から物事を捉えがちで、特にウクライナ問題については、あたかもそれが世界の趨勢のように感じてしまうことがあるかと思いますが、実際は、上記のように、EUやNATOの中ですら不協和音があり、さらに申し上げれば、世界の中では、多くの国(アジア、中東、アフリカ、中南米等)が、ロシアに配慮をし、あるいは「ロシアと西側との対立には、巻き込まれたくない」という姿勢であることを冷静に認識し、そして今後の我が国自身の安全保障(「もし、日本が攻め込まれた場合、果たして、どの国がともに戦ってくれるのか?」)について、改めて考える必要があると思います。

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現在の国連加盟国193カ国のうち、2022年3月2日の国連総会でのロシア非難決議に賛成した国は、141か国でした。反対は、ロシア、ベラルーシ、シリア、北朝鮮、エリトリアの5か国、棄権したのは、中国、イラン、イラク、インド、ベトナム、モンゴル、パキスタン、キューバ、南アフリカ、スーダン等の35か国でした。

さらに、ブチャなどでのロシア軍によるとされる民間人殺害を受け、4月7日の国連総会で採択された、ロシアの国連人権理事会理事国としての資格停止を求める決議については、賛成は93か国で、ロシア、ベラルーシ、シリア、北朝鮮、中国、イラン、アルジェリア、ベトナム、キューバなど24カ国が反対し、インド、ブラジル、エジプト、メキシコ、インドネシア、イラク、マレーシア、タイ、南アフリカ等58か国が棄権しました。

ロシア非難決議よりも、反対・棄権が急増した、という状況からは、(もちろん決議内容の違いはありますが)、世界の中には、ロシアへ配慮を示している、あるいは、西側諸国とロシアとの対立に巻き込まれたくない、中立を保とうと思っている国が多くある、ということがいえると思います。

▼インド

例えば、中国とインドは、ともにロシアとの協力関係があり、国連のロシア非難決議に棄権しましたが、欧米の対ロシア経済制裁については、中国が明確に非難しているのに対し、インドは沈黙しています。一方で、4月下旬には、ウクライナ避難民のための人道支援物資を、インド・ムンバイから運ぼうとした日本の自衛隊機の着陸を拒否しました。

地政学的にも近隣に大きなリスクを抱え、経済台頭もしているインドが、両陣営どちらにも与せず、バランスを取ろうとしていることがうかがえます。

▼中東

中東の安全保障環境も変化しています。

経済制裁の一環として、欧米は、ロシア産原油や天然ガスの輸入の禁止・制限をするに当たり、中東の産油国に原油の増産を求めていますが、中東の産油国は、増産には消極的です。「ロシアを含むOPECプラス」の枠組みを尊重し、「西側諸国に協力して、積極的にロシアと対立するつもりはない」という姿勢を取り、また、原油価格を高値で維持したいという思惑もあると思われます。2018年のサウジ人ジャーナリストの殺害事件に関し、ムハンマド皇太子を批判し、サウジへの投資に消極的になった欧米への不満、あるいは、シェール革命で中東への依存度が低下してきていた米国への当てつけ等の要因もあると推察されます。

アラブ首長国連邦(UAE)は、3月18日、欧米と対立するシリアのアサド大統領を迎え、これに対し、米国務省は「深く失望し、憂慮する」とする声明を出しました。

また、長らく対立してきたイスラエルと一部のアラブ諸国の国交正常化が進み、イスラエルのベネット首相とUAEアブダビのムハンマド皇太子は、3月22日、エジプトを訪れ、シシ大統領との三者会談を行い、米国が合意形成を目指す「イラン核合意」について、地域の脅威になるとして、合意させない方向での方策を話し合ったとされています。

パレスチナ問題などを巡り、米国バイデン政権は、トランプ政権のようにはイスラエルに過度な肩入れはしない方針になったとはいえ、長きに渡る米国と強固な同盟関係にあるはずのイスラエルの最近の動向には、大きく変わりゆく世界秩序の一端を見ます。

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もちろん、そのときどきの世界情勢を踏まえ、各々の国が、国益の観点から振る舞いを変えていくということは、外交や安全保障政策の基本であるわけですが、ロシアによるウクライナ侵攻という明白な国際法違反に対して、西側諸国が注力している一方で、世界の各地では、様々な思惑がうごめき、多岐にわたる西側秩序への挑戦もなされていっていることに留意する必要があります。

ロシアや中国の隣に位置する日本は、刻々と変動していく世界のパワーバランスや各国の深謀遠も見据えながら、如何にして自国を守り、発展させていくのか、多角的・戦略的に考えていくことが求められます。

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