「コロナ禍で閉店した宿を、不登校や発達障害の子、それを支える保護者様が気軽に集える温かな施設とし、平日開放しています!中々存在を知っていただけないので、拡散御協力お願い致します(_ _*))」と、施設の写真、間取り図がTwitterに投稿されました。
こちらのツイ主である「たんぽぽさんNPO法人ハッピーラボ理事長」さん(@NPOtanpopo)こと、森 美智さんにお話を聞きました。
新たな始まりの季節ではありますが、新年度という節目や環境の変化に伴う日々の生活への心配、学校への不安、家庭内の問題…そういった悩みを抱える方々に救いの手を差し伸べるために、定期的にツイートされています。
森さんは、愛知県名古屋市にある施設「金山ごちゃまぜテラス」を運営しており、フリースクールやこども食堂、不登校カフェや支えあいサークルなど様々な福祉事業を行っています。宿跡を利用した経緯や取り組みなど、詳しくお話を伺いました。
皆さんから愛される場所に
――どういったきっかけで、今回の活動を?
開設するまでは、別の物件で、「フリースクールたんぽぽ」や「認知症カフェ」「こども食堂」などを運営しており、相談業務は自宅でも受けていました。コロナ禍に入り、不登校になる子どもが増えフリースクールの人数が増えて密になったこと、国から自粛要請が出たことで移転を決め、ここで挑戦することを決意し2021年8月にオープンしました。
――閉店した宿なんですよね?
宿自体は、2021年の4月頃に閉店したと聞いています。不動産屋さんに物件として掲載されており、中にあるもの全て残ったままでの引き取りが条件でした。
実際、宿の中にはまだまだ経営を続けたい様子が伝わる季節のグッズや、手書きメモなどが残されたままでした。宿に愛情を持ち経営されていたんでしょうね…そのまま引き継ぎ、今でも残しています。
バックパッカーさんが泊まる古民家宿でしたので、2段ベッドが全部で14個も設置されたままでした。結構有名な宿だったようで、今でも宿をご利用されたい方が直接いらっしゃいます。コロナがなければ、愛され続けた宿だったと思いますし、この宿を手放した方のためにも、私はここを皆さんに愛される場として大切にしていきたいと思っています。
――「ごちゃまぜテラス」という名の通り、たくさんのお部屋は様々な使い方を?
「ごちゃまぜテラス」という名は、色々な生きづらさを抱えた人たちが集まり支え合う場所としたくてつけました。2階から上は、不登校の子が集まるフリースクールとして活用していて部屋ごとに雰囲気を変えています。元気な子が過ごしやすい部屋、静かに過ごしたい子が過ごしやすい部屋(メダカなどがいる水槽の音が心地いいそうです)、パソコン(4台あります)やゲームが好きな子が過ごしやすい部屋、楽器の練習ができる部屋などに分けています。
1階は16畳ほどの大部屋をコミュニティスペースとして開放しており、無料塾としても使っています。漫画家さんや講師の方が来て講演をしたり、ヨガなどのイベントも行っています。駄菓子屋さんもあり、本やボードゲームなどもたくさん置いています。フリースクールの子どもたちは1階も自由に行き来が可能です。ここは宿の時にも交流の場として使われていたようです。
――実際に利用された方からの感想は?
昔の木の香り、雰囲気が落ち着くと言われます。昔の学校みたいで懐かしいと言っていただいています。テラスを褒めてくださる方も多いですね。
生きにくさを抱えた子と、支えている方々の場に
――定期的にツイートされている理由を教えてください。
周知がかなり難しいことや、1回のツイートでは数人の視界に入る程度で全く広まらないからです。ボランティア希望の方にも見つけていただきたい思いもあります。
施設のニュアンス的には「生きにくさを抱えた子と、支えている方々のコミュニティの場」という感覚でいます。ひきこもりの若者、保護者、発達障害の子どもやその育児で疲れている母親も対象です。
現在は毎日数名(3~8名)の利用者の方がいらっしゃいますがこの数字もムラがあり、1人だけ来て帰ってしまう日もあります。コロナや気候、新学期や進級への不安などからだと思いますが、ご利用者が少ないと入りにくいかと思いますし、同じ趣味をもったお友達も出来にくいことが課題です。ただ、お問い合わせや地方からの激励のDMが多数ありますので、求められる施設だと確信しています。
――使用料はおいくらですか?
平日に限定させていただいていますが「月3000円で何日でも」です。安価にしないとご利用しにくいと思ったので。ただ、周りからは安すぎると心配されます。
――施設利用の他にも、福祉事業の場として様々な活動を行っていらっしゃるのですね。
フリースクールたんぽぽ、こども食堂ひなたでごはん、フードパントリー、東大卒業生スタッフによる無料塾、たんぽぽ各種カフェ(不登校カフェ等)、駄菓子屋ぽぽちゃん、支えあいサークル(自傷行為、摂食障害、LGBT)など多岐にわたっています。
加えて現在は、経済的に困窮されておられる方への物資配給なども行っており、対象はシングルマザーに限らず、若者や老人、外国の方などどなたでもです。
ーー実際はどんな方が?
発達障害で生きづらさを抱えた青年や、LGBTQで悩んでいる子、不登校の子を持つ保護者様、Twitterで頼ってくれた子どもたちが遊びに来てくれる場所にもなっています。施設の中は、不登校や虐待などで悩んでいる子たちが書いた沢山の作品やメッセージを壁に飾っており、随時作品展みたいなスペースにもなっています。
最近愛知県では、多くの保育園がコロナで休園となりましたので、子どもを預ける場に困ったお母様から託児を受けることもしています。私自身は子育て支援員、介護福祉士、チャイルドカウンセラーの資格を持ち、スタッフや法人の理事の中には食品衛生管理者や栄養士、食生活アドバイザーなどの有資格者や、元保育士、元教員がおります。
困っている人を救うべく「居場所作り」を決意
――いつ頃から地域福祉・子育て支援(学習支援)活動に取り組まれているのでしょうか?
悩みを抱えた子の支援活動を始めたのは5年前です。当時は介護施設で施設長をしながら認知症カフェや、無料塾などを開催していました。法人を立ち上げたのは4年前になります。
ーーそれまでは?
私は、3人の子を持つシングルマザーです。末っ子が2歳の時に離婚しました。1番上の子が高校の時、いじめが原因で不登校になりました。学校側にいじめた側との面談を希望しましたが却下されました。私は正社員で生活を支えていましたが、子どもを連れ保健室登校しなければならなくなり、フレックスを使っても仕事が終わるのは夜遅かったんです。
ーーそんななかできっかけは?
子どもが単位を取らなければ留年か退学になると先生から追い込まれた日、学校側は教室の1番後ろの廊下側に息子の席を設置し、チャイムが鳴ったら座り寝ていたら単位をあげるといいましたが、結局息子は廊下で吐き、教室には入れず終わりました。いじめる側がいる学校には留年した所で通うことは不可能…。その後、フリースクールへ転校して、大学に進み、今はうちのフリースクールでスタッフ担当として働いています。
息子が学校に行けなくなった時、息子と激しく争う日が続き、息子は引きこもり食事も取らなくなり、家庭が壊れました。私は下の子たちもいるので無理して笑顔で仕事・育児・家事をしないといけないと思っていましたが、心の中は光の見えない真っ暗なトンネルの中にいるようで…。頑張ってはいましたが、結局心の病にかかってしまいました。そんな経験もあり、同じように苦しんでいる家庭の子どもと保護者様を救いたいと思いました。
また、住んでいた学区で帰宅中の中学生が団地から飛び降り自殺しました。原因はいじめと教師の暴言。「学校に無理していくことは無い。学校が原因で死ぬなんてダメ。死ぬ前にふらっと行ける…温かな居場所を作れば死を防ぐことが出来るのでは…」と。
ーーそういった背景から生まれた場所だったんですね。
私自身、身体的虐待による通報で児相や警察が自宅にくる環境で育ちながらなんとか成人し、親と縁を切った過去があります。エアガンの的や押し入れに縛られ拘束されたりするおかしな家庭で育ちましたので、「育児で悩む優しい保護者様たちを救い、子どもたちの居場所にもなりたい」「不登校や発達障害で悩み、虐待してしまう母親とも繋がり、気持ちを和らげてあげたい」という気持ちも強くあります。
虐待を生き抜いた意味を探したい思いもあり、ここで挑戦を続けています。
――そのための運営の費用はどのように。
事業の利用料と助成金やご寄附から成り立っており、物品のご寄附はTwitterがほとんどです。SNSならではで、全国から寄付の物資が届くので有難いです。ただ、金銭的なご寄付はほとんど無いので、うちの法人の場合助成金申請が多く、書類作成に時間がかかります。作成が大変な書類のため、審査に落ちた時は活動を否定されてしまったように感じてしまい落ち込みが半端ないです。
まずは気軽に連絡を「いつでも頼って」
――一連の活動を通して森さんの思いをお聞かせください。
不登校で相談に来てくれた子どもたちや保護者様方が、色々お話を聞かせてくれて涙を流してくれる時、苦しみが外に溢れて少しは気持ちが軽くなったのかな…とホッとします。
うつ病の子やパニック障害の子、強迫障害の子など色々な子どもたちが会いに来てくれますが、みんな会ったその日に心を開いてくれることが多く、子どもたちから「初対面でも自分を解ってくれる人だとなんとなく解るんだよ!」と言われると本当に嬉しいです。苦しい生い立ちや経験があったからこそ人に寄り添えているなら、生きてきてよかったと思います。
生きにくさを抱える子ども(若者)には、色々な子たちがいます。人を傷つける言葉を言ってしまう子、傷つきやすい繊細な子、大声が出ちゃう子、大声が苦手な子…そんな色々な子たちに合わせられるスタッフを配置する事がかなり難しいです。ボランティアさんも足らず、スタッフ不足でもあります。資金もなく、国からの援助もないので、しっかりしたスタッフを雇い、施設内容や質を良くするゆとりが無いことが悩みです。
ーー今後はどのような場所を目指していますか?
将来的には、不登校や引きこもり経験のある子たちが作りあげるフリースクール+生きづらさを抱えた人でも無理せず働ける居場所(施設)を作っていきたいとも思っています。働く子にはお給料を出し、生き生き無理せず生きていける居場所を…と。
フリースクールに来てくれるボランティアの多くが元不登校の子ですので、居心地の良い居場所を作っていけると信じています。家賃が高額なので、現在は全てを安く開放することは難しくて…。夢は無料で使って頂ける施設として国から委託を受け、多くの人たちの温かな居場所となる事ですね。
◇ ◇
「苦しい気持ち、悲しい気持ち、生きる意味や自分の価値…色々抱え込まないで、周りを見渡してみてください。きっと、力になってくれる施設や人がいますから。とても苦しくてお話を聞いて欲しい方はお聞きしますのでいつでも頼ってください」と森さん。
宿としての役目を終えた古民家を、様々な困難を抱える方々のための開かれた施設に…と奮闘する森さんの確固たる信念が伝わってきましたし、その特殊な居抜きの間取りを活かした部屋割りのアイデアになるほどと頷きました。と同時に、運営面にまだまだ問題や悩みをお持ちであることも知りました。
必要とする方々がたどり着ける場所として今後も在り続けられることを願っています。イベントや物資配布など最新の情報はSNSや公式サイトで確認を。
【森さん関連情報】
■金山ごちゃまぜテラス
住所:愛知県名古屋市中区金山2-4-2 時間:10:00~16:00開放
■森さんTwitter https://twitter.com/NPOtanpopo
■ハッピーラボHP https://happylabo.jp
■ハッピーラボInstagram https://www.instagram.com/tanpopochan2018