保護した子猫は猫エイズにかかっていた。夢に現れた翌朝、預かり先から受けた知らせに「あの子は、お礼をいいにきてくれたのかも」と感じたという。今でも思い出す小さな命の物語だ。
「車に轢かれる…」住宅地の路上で授乳している母子猫の捕獲作戦
2019年5月、大阪府八尾市でお好み焼き屋を経営する上浦仁美さんは、生まれて間もない2匹の子猫に路上で授乳する母猫を見つけた。
住宅地の中を通る細い道だった。「車に轢かれる前に安全な場所へ移してあげたい」と、上浦さんは知り合いの保護猫ボランティアへ連絡した。
「保護してあげられませんか?」
しかし、ボランティアからの返事は「NO」だった。
「今は保護した猫がたくさんいて、預かってくれる人も手一杯です。ひとまず車をよけて、道路の端っこで段ボール箱に入れてはどうですか?」
そういわれても……。上浦さんは困ってしまった。
「段ボールの箱に入れても、出てくるじゃないですか。危ないことに変わりないわけですよ」
ほかにも心当たりを探して、個人で保護猫活動をやっているAさんに事情を伝えた。Aさんは、病気にかかったりケガをしたりしている猫を保護しては動物病院へ連れていき、治療してから譲渡会に出しているという。
上浦さんから事情を聞いたAさんは「いいよ、俺が面倒を見てあげる」と快く引き受けてくれた。
「2匹いた子猫のうち1匹は逃げてしまいましたけど、残る1匹(オス)は保護してAさんのご自宅へ連れていきました」
Aさんは子猫をすぐ動物病院へ連れていってくれた。ところが、猫エイズの検査で陽性反応が出たという。そうなると、他の猫へうつしてしまうから同じ空間では飼えない。だがAさんは「うちで猫エイズの子を保護しているから」と、一緒に預かってくれることになった。こうしてAさん宅で暮らすことになった子猫は、体が小さいから「マメ」と名付けられた。
「お礼をいいに来てくれたのかな」
マメがAさんのもとで暮らすようになって数日が経った5月22日未明のこと。「早朝5時頃だったかな」と上浦さんは振り返る。
「マメの夢を見て、目が覚めました。気にしていたから夢にまで出てきたと思って、トイレに行ってからまたお布団に入ったんです」
次に目が覚めたときは、すっかり夜が明けていた。携帯電話を手に取ると、メールが1通届いていた。Aさんからだった。
「さきほど、マメが虹の橋のたもとへ旅立ちました」という内容だった。
その時間と上浦さんがマメの夢を見ていた時間が、ほぼ一致していた。
「たまたま夢を見ていただけで偶然なのかわかりませんけど、たぶんマメがお礼をいいに来てくれたのかな。そんな気がしています」
母猫のほうは、マメが保護された後あらためて捕獲された。
「そのまま野良猫生活をさせておいたら、また子供を生むかもしれないでしょ」
日ごろからよくエサをあげていた人が費用を出して避妊手術を施し、3年経った今も地域猫として暮らしている。上浦さんも「お母ちゃん」と呼んで、ときどきエサをあげているそうだ。2月24日に上浦さんが撮影した写真を見ると、路上で授乳していた頃と比べたら少しふっくらしているように見える。
一方、逃げたもう1匹の子猫が気になるけれど、どこへいったのか、マメを保護した日から姿を見かけないという。