神社を守るのは…狛犬ならぬ「狛猫」しかも子猫同伴!? 京丹後の今昔を見守り続け、まちおこしの主役に

野崎 泉 野崎 泉

神社へ行くと、あたかも社殿を守るように鎮座している「狛犬」。神社ごとにさまざまな造形が楽しめ、ユーモラスなものも多いので、ひそかにチェックしている人も多いのでは? 狛犬にはさまざまな種類があり、キツネ、イノシシ、サル、ウサギ、シカ、カエルなどの動物をかたどったものが存在する。なかでも、京丹後の峰山にある金刀比羅神社は、猫好きなら一度は訪れたい聖地だ。境内にある木島神社には、なんと日本で唯一とされる「狛猫」がいるのである。

なぜ、猫なのか? それは峰山が丹後ちりめんの一大産地として栄えた歴史に起因する(300年ほど前に絹屋佐平治という人が京都・西陣で技術を習得し、ちりめん織の技法をこの地に広めたのだそう)。ちりめん織に欠かせない絹糸を生み出す養蚕業も盛んだったが、当時の人々にとって、まゆやカイコを食い荒らすネズミは天敵だった。そこで、ネズミを撃退してくれる猫をかたどった「狛猫」を、地元の糸商人や養蚕業者たちが奉納したというのである。

実は、子猫を抱いているのがオス?

ちなみに、最初は1体しかいなかったそうで、左にいるこの子が最初のもの。狛犬は口を開けた「阿形」と、口を閉じた「吽形」が対になっているが、この猫も「阿(あ)」のかたちに口を開けている。足元に、子猫がじゃれついているのがなんともかわいらしい。

その後、右側に2体目が奉納された。「吽(うん)」のかたちに口を閉じた子で、こちらも絶妙なかわいさ。「阿」は口を開いて最初に発する音であり、「吽」は口を閉じた時の最後の音。この2体が対になることで、阿吽=「万物の始まりと終わり」を表すというのは、周知の通り。長い年月、風雨に耐えてきた石の質感から、かつてこの神社に参って祈りを捧げたであろう、昔日の人々の姿が浮かんでくる。

ちなみに、子猫を抱いている方がお母さん猫かと思いきや、こちらがお父さんだという説もあるという。対になる方はなんともキュートな表情で、こちらのほうがメスっぽくてお母さんかもしれない。

衰退した町に、狛猫が人を呼ぶ!?

峰山の金刀比羅神社は1811年、讃岐金刀比羅宮から御分霊をお迎えして創祀されたという。宮司さんにお話をうかがってみたところ、丹後ちりめんの衰退とともに、峰山も過疎化がすすみ、かつての賑わいは見る影もなくなってしまった。しかしながら、2011年春に、200年という節目を迎えたあたりから少しずつ変化が。

「その頃から、『全国でも珍しい狛猫をもっと知ってもらえたら』と、地域の人々が力を合わせ、狛猫を全面に押し出したさまざまな発信をするようになったのです」とのこと。

現在、峰山で見かける、陶器の狛猫もそのひとつ。美術家さんに焼いてもらった200体の素焼きの猫(狛猫のレプリカ)に、地元の小学生らに絵付けしてもらい、神社の行事の際や年末年始に境内や石段に並べたそう。「峰山のあちこちで、狛猫に出会えるように」ということで地元のお店にも協力してもらい、店頭などにも置くようにもなったとか。狛猫がいるほのぼのとした情景を写真に撮るだけでなく、素焼きの猫に自分で絵付けし、お土産として持って帰ることができる体験教室もやっているそう。

2016年からは「こまねこまつり」という、まちあるきツアーや縁日を楽しめるイベントもスタートし、コロナ禍前までは、遠方からやってくる人も増えつつあったそうだ。2018年の「こまねこウォーク」で巡った峰山の稲代吉原神社には、こんな狛猫に負けずとも劣らない、超絶かわいい意匠が。虎なのかもしれないが、猫にしか見えませんよね!?

狛猫をモチーフにしたもなかや焼酎に散財

金刀比羅神社の向かいにある「お菓子司 大道」というお店の、「狛猫もなか」。ちゃんと、口を開けた「阿(あ)」の猫と、口を閉じた「吽(うん)」の猫が両方、もなかになっているのがすばらしい!「大道」さんはなんと、明治33年創業だそうで、ケーキなどの洋菓子も製造している。最近では少なくなったが、昭和の頃はこういう和菓子屋さんと洋菓子屋さんを兼ねているお店がけっこうあった。お参りの帰りに寄れば、懐かしい気持ちになれそうだ。

丹後地域で唯一の焼酎蔵、「丹後蔵」が製造した「いもにゃん」。地元の金時芋を使い、金刀比羅神社の湧き水で仕込んだ芋焼酎である。見た目はかわいいが味は本格派だそうなので、酒好きにはこちらをお土産にしたい。

というわけで、「まいどニャニュース」もとい「まいどなニュース」で、狛猫のかわいさについてお伝えした。江戸時代から峰山の繁栄になくてはならない存在だった猫が、令和の世でもまちおこしの主役となっているのは不思議な気がする。まさに、猫とともに生き、猫に守られている町なのだ……。コロナ禍が落ち着いたらぜひ皆さんも京丹後・峰山を旅して、猫まみれな1日を過ごしてほしい。

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