戦後日本人に愛され続けたたばこ「ピース」誕生秘話　配給品の10倍以上の価格にもかかわらず長蛇の列

第二次世界大戦後、たばこは配給制でなかなか手に入らず闇たばこが横行していた時代に、自由に買えるたばことして1946年1月に発売されました。「外国たばこを超える味」を目指して開発され、ブランド名は、戦後の混乱期「来るべき平和」への願いを込めて「ピース」と名付けられました。

1952年に現代商業デザインの先駆者であるレイモンド・ローウィ氏によってリデザインされたのが、現在まで続くパッケージデザインの原型となっています。そのピースは「デザインが嗜好を変えた」とまで言われ、当時の商業デザインにも大きな影響を与え、ブランドカラーである紺は、日本の伝統色の藍色でもあり「ピース紺」として親しまれています。

戦後間もなく、物資不足によってたばこの配給が続く中、財政収入を目的とした製品計画が立ち上がりました。名称とデザインは公募され、数万点もの作品が届けられました。公募された名称とデザインから「ニューワールド」が最有力候補として選出されましたが、当時の印刷技術では再現困難という理由から、「ピース」が採用されることとなりました。こうした戦後の荒廃の中から「ピース」というたばこが誕生しました。

戦争終結直後、たばこは極度に不足していた。たばこの割当配給制の続く中、1946年1月10日に「ピース」の自由販売品が発売されました。配給品だった「光」などに比べて10倍以上の価格であったにもかかわらず、発売日にはたばこ小売店に長蛇の列ができました。一本のたばこに安らぎや憩いを求めていた時代のエピソードです。

1946年から約1年間、戦後の苦しい財政を援助するために、ピースの小箱の裏面と中箱に他の企業から募集した広告を掲出したことがありました。たばこのパッケージを広告媒体にしたのは、日本ではこれが初めてで、世界的にも珍しいことでした。

レイモンド・ローウィ氏の手掛けたピースのデザイン料は150万円。1952年(昭和27)当時の内閣総理大臣の月給が11万円だったことからみても、破格の報酬であったことが推察されます。この新しいデザインのピースが発売されるやいなや、売り上げは前年同月に比べ約3倍にも増加しました。

レイモンド・ローウィ氏によりデザインされたピースのパッケージには、平和の象徴として「オリーブをくわえた鳩」が描かれています。これは旧約聖書創世記からの典拠、「神が起こした大洪水のあと、陸地を探すためにノアの放った鳩がオリーブの枝をくわえて帰ってきた。これを見たノアは、洪水が引き始めたことを知った」ことに由来します。

日本が高度経済成長に沸いた1950年代後半から1960年代。東京オリンピックの開催にあわせるように、高速道路や新幹線などの社会的インフラの整備が進みました。こうした時代を写し取って、特別にデザインされた記念たばこが数多く登場し、約70ミリ×44ミリの小さなキャンバスに「昭和の風物」を美しく彩りました。