保育園や幼稚園の設計デザインを数多く手掛けている気鋭の建築家、藤井亮輔さんが世界の子どもたちをつなげるオンラインプロジェクト「A&M」(冒険と出会い)を立ち上げた。「天才を創る環境」「子どもはみんな天才!」などの書籍も出版している藤井さんは「幼少期にこそ、世界の子どもたちと交流してほしい」と話す。
0歳から5歳の子どもは環境の産物
藤井さんは「子どもの居場所を創る建築家」として、2016年に「藤井亮輔建築設計事務所」を開業。神戸市須磨区在住の34歳で、これまでに保育園、幼稚園の設計デザインや管理業務を中心に103園、延べ5000人以上の子どもの施設に関わってきた。
建築のテーマは「FEEL」で、大きなおもちゃとして子どもの感受性を育てるデザインを提唱。建築を通して子どもの可能性を引き出すことにも尽力。また教育者として、京都建築大学校の非常勤講師としても活動中だ。
自身も5歳と3歳になる2人の息子さんを持つ父親。「建築や環境は0歳から5歳の子どもに与える影響は大きい。そして、子どもは環境の産物と言われるほど、環境からいろんなことを学び取る力を持っている。大人は、子どもに教えることはできないけど、体験、体感をさせてあげる環境を整えてあげることができる」と力説する。
藤井さんが手がける施設の特徴は主に2点。空間や建物の環境構築を通して、子どもたちが自らの個性、感性を自分で発見する力を身につけることができるように考えられているかどうか。それと、子どもたちに関わる人の環境づくりにも配慮している。
世界中の子どもたちをオンラインでつなぐプロジェクト「A&M」
2021年の秋からは、世界の幼稚園と日本の幼稚園、保育園などをオンラインでつなげるプロジェクト「A&M(Adventure & Meets: 冒険と出会い)」を立ち上げている。
きっかけは息子たちの思わぬ行動だった。「コロナ禍で友達と遊べなかった息子たちがオンラインでアメリカの人に言語関係なく恐竜のぬいぐるみを持って『ティラノサウルスー、トリケラトプスー』と自己表現100%でやっている姿を見ました。それに、オンラインの向こうの人が頷いていたり、OK!と笑顔で表現したりするのを見て、これだと思いました」
危惧したのは子どもたちの言葉の問題だが、藤井さんは「0歳から5歳ぐらいまでの子どもなら言語が通じなくても、感情でコミュニケーションすることができる」と言う。
実際、この9月にはフィリピン・セブ島の幼稚園児と、大阪の保育園児がオンラインで交流や遊びを楽しんだ。言葉が通じなくても彼らはちゃんと交流できていたそうだ。「楽しい」「面白い」「愉快」などの感情を共有できた結果、友達になれた。さらに、10月にも再度、オンラインで交流。やはり、言葉の壁は存在しなかったというのだ。
これを受け、11月29日には大阪の保育園がフィリピン・セブ島の幼稚園児と3回目の交流。また、10月にインドと文化交流した千葉県の英語スクールが11月27日にはカンボジアとの文化交流をした。
プロジェクトがスタートして3カ月あまり。現在、アメリカ、オーストラリア、ニュージーラント、フィリピン、ブラジルなどつながった国は約早くも20カ国。近い将来の目標は100カ国以上という。
実際、交流活動を見ていた幼稚園側や保護者は「子どもの新しい一面を見ることができました。子どもは言葉がなくてもおもちゃ遊びを通してつながっていることにビックリしました。そんな体験ができたのもA&Mに参加できたからです。藤井さんには感謝です」と話す。
ミッションは「世界中から保育園、幼稚園を選べる世界にすること」
藤井さんは「こどもの居場所を創る協会」も立ち上げている。その一環として「ラオス教育支援活動プロジェクト」にも参加。この4月にはその村の校舎(学校)のデザインを担当する。
建築家なのになぜ、ここまで子どもたちの未来のために尽力するのか?聞いてみた。
「私は生まれてからほぼ祖父母に育てられ、幼少期の母親との記憶は少ないんですよ」
そんな藤井さんは祖父母や地域の人たちにおはじきや囲碁、将棋やけん玉、竹馬…など、たくさんの遊びを教えてもらい育ったという。
「実は、我が子を授かった時には育て方について妻と一緒に悩みました。 遊びのことならわかるけど、子育てとなるとわからない…。私自身、子育てに悩んだ経験から今回の発想が生まれました。
子どもの感性というものは幼児期に、体験、体感を通して大きく刺激されます。この限られた短い期間にこそ、誰もが持つ才能の種にしっかりと水をやることが大切なのです。そこで、一緒に参加していただける幼稚園や保育園さんが増えることを期待しています」
なにかと注目されている子育て。藤井さんの今後の活動に目が離せそうにない。