動物愛護センターから引き出された元保護犬のまるこちゃん(雌、6歳)。犬が苦手で、ほかの犬が近づくと興奮して発作を起こし倒れてしまうワンちゃんです。そのため、飼い主のみちさん(埼玉県在住)は、散歩をするとき、「わんこ にがて」と書かれた黄色いバンダナやリボンをまるこちゃんに付けて出くわした犬の飼い主さんに知らせるようにしているといいます。
この黄色いバンダナやリボンというのは、まるこちゃんのように犬が苦手だったり、怖がりだったり、あるいは病気やけがなどさまざまな理由から「近づかないで、離れていてね」というメッセージが込められた目印。そんな目印を付けているワンちゃんを「イエローリボン犬」と呼びます。
しかし、イエローリボン犬は日本であまり知られていません。そこで、みちさんは10月、イエローリボン犬のことを広く知ってもらうために啓発活動に取り組もうと、ボランティアチームを発足しました。
みちさんは「まるこは我が家に来てから間もなく犬に出会うたびにてんかんのような発作を起こすようになりました。イエローリボン犬のことを知って、リボンを付けるようになったのですが、当初は自分の住んでいる地域で全く知られておらず…お散歩も犬に出くわさないよう回避するのに必死でした。今は、地域の人たちにまるこのようなイエローリボン犬のことを知っていただこうと啓発活動に努めているところです」と話します。
元保護犬まるこちゃん「犬が苦手」 おうちに迎えてから発作が起きた…散歩が困難に
まるこちゃんは今年1月、千葉県のボランティア団体からトライアルを経てみちさんのおうちに迎えられました。ほとんど吠えたりしないという、普段はおとなしいワンちゃん。異変が起きたのは2月に入ってからでした。
「2月初旬、夫とお出掛けをするときにまるこをサークルに入れてお留守番させたときのことです。帰宅してサークルから出した際、まるこは私たちが帰ってきたことにとても喜んだのですが、急にパタンと倒れたんです。そのときはすぐ起き上がったので、最初は『転んだ』のかと思っていました。
それから2週間後、お散歩をしていたら、犬が2匹近づいてきてワンワンと吠えられたんです。もともとまるこを保護したボランティア団体から『犬が嫌いなので、犬を近づけないでください』と言われていたため、私は回避しようと思って逃げたのですが、逃げている最中にまるこは鳴き叫んだあといきなり倒れて…そのときはとてもびっくりしました」
急いでまるこちゃんを病院に連れて行ったというみちさん。その際、獣医師からてんかんの疑いを告げられました。
「セカンドオピニオンで他の先生に診ていただいても、てんかんの可能性が高いとのことでした。ほぼてんかん発作だろうと言われていますが、まるこはもともと心臓が悪く、心臓発作の疑いのある発作が2回ほど起きています。心臓発作である場合は命の危険があるため、毎日聴診器を使って心拍に乱れがないかチェックしたり、犬の心臓マッサージを勉強したりいつでも対応できるようにしています。
また、成犬になってからてんかん発作を起こすのは脳腫瘍の子が多いそうです。MRI検査をすれば脳腫瘍かどうか分かるのですが、全身麻酔をして検査を受けなければなりません。既に卵巣嚢腫(のうしゅ)や乳腺腫瘍などの手術をしているまるこは、度重なる全身麻酔は心臓に負担がかかり、先生からも検査は勧められていません。たとえ脳腫瘍だと分かったとしても『助からない可能性が高い』とも言われており…今は、お薬を飲ませながら普段から発作が起こらないようにと極力努めています」
発作は興奮して脈が上がると起きる 犬と出会ったときだけではなく「うれしい」ときも
また、まるこちゃんの発作は興奮して脈が上がると起きるとのことですが、犬と出くわしたときだけではなく自宅などでも発作が起きることがあるそうです。
「大半は外で犬と出会って発作が起きるのですが、家で発作が起きることもあります。それは、私の両親や来客を迎えたときなどにすごくうれしくなってしまって、発作を起こして倒れるパターンです。ただ、家でうれしくなって倒れるときと、犬が原因で倒れる場合とでは発作の強度が違って、犬と出くわしてしまったときはギャンギャン鳴き叫びながら、激しく倒れます。家の場合は、キュンと鳴いてパタンと倒れるので比較的軽度なんです」
このようにまるこちゃんが発作を起こした際の対応について、みちさんはこう説明します。
「倒れたときは頭を地面などにぶつけないようにするということと、しばらく落ち着くまでは触らないで見守ることと、病院の先生から言われています。徐々に記憶が鮮明になってくるので、起きてきたなと思ったら、なでながら介抱していくのですが、本人は何が起きたか分かっていないようです。なので、起き上がったあとは、とにかく何もなかったかのように明るく振舞い、大丈夫だよ、と声を掛けるようにしています」
一方で、まるこちゃんの発作は日に日に悪化の一途をたどっているとのこと。最近は、発作が月に2、3回起きているといいます。
「まるこは発作を起こすとおしっこを漏らすようになりました。先生いわく、良くはならない。てんかんは発作のたびに脳にダメージがあるので、とにかく発作を起こさないように生活するよう指導されています。最近多いのが、排泄時後方から犬が急に近づいてくるパターンです。常に注意を払っていますが、排泄の片づけ中に背後から来られるとこちらから防ぐことができません。相手の犬もほえていたりしますから、まるこはびっくりして応戦する形で犬に飛びかかろうとします。
回避するために逃げるのですが、やはり逃げている途中に倒れてしまうんです。てんかん発作を抑えるお薬を飲んではいるものの発作の回数が多く、先生からも『犬に会わせないように』と言われているのですが…おしっこは外でしかしないので、お散歩ができなくなると困ります。それに、まるこはお散歩が大好きなので、本当にかわいそうです。とにかく、今は犬を連れてお散歩している人が多い時間帯を避けながらお散歩をしています」
「近づかないでね」とメッセージを伝えられるイエローリボンの存在を知る
発作が初めて起きた2月、みちさんは、インスタグラムにまるこちゃんが犬が苦手で発作が起きたことを書きました。すると、何人かのフォロワーさんから「YELLOW DOG PROJECT(イエロードッグプロジェクト)」というものがあることを教えてもらったといいます。
「イエロードッグプロジェクトというのは、黄色いリボンなどをリードや愛犬に付けておくことで、『犬を近づけないでね』『そっとしておいてほしい』というメッセージを伝える活動のこと。ヨーロッパで始まったと言われており、それを知ってから黄色いリボンやバンダナなどをまるこに付けてお散歩をするようになりました。しかし、日本ではイエローリボンの認知度が低く、リボンを付けたばかりのころは、なかなか分かってもらえませんでした」
そこで、みちさんはイエローリボンのこと、まるこちゃんのことを少しでも地域の人たちに知ってもらおうと個人で啓発活動を始めました。
「まるこのお散歩中、犬を連れずにウォーキングをしている人たちにあいさつをして、積極的に声を掛けるようにしました。顔見知りになり親しくなってきてから、少しずつまるこの病気のことやイエローリボン犬のことをお話しています。また、自治会の方にもお話できる機会をいただいて、自治会から近所の犬飼いの人たちに伝えてくださいました。半年経ってようやく、こうした地道な活動の成果が出始めているように感じます。最近は、リボンを見られて道を譲っていただくことがありました。
途中で挫折しそうになりましたが、情報発信をしているSNSで頑張ってとコメントをくださったり情報を拡散してくださったり、あるいは、有名な『迷子犬の掲示板』さんが今年夏に『YELLOW RIBBON DOG(イエローリボンドッグ)』を立ち上げてイエローリボンを広める活動を始めるなど心強い団体と交流を深めたりして、ここまで頑張ることができました」
まるこちゃんの飼い主、10月にボランティアチームを発足 「イエローリボンを広めたい」
さらに、個人だけの活動には限界を感じていたというみちさんは、10月に入り有志とともにボランティアチームを立ち上げました。まずは地域に特化して広めていくことを目指して、啓発チラシを地域で貼ってもらったり、SNS上で動画を作成したり、情報を発信したりとさまざまな取り組みにチャレンジしていくといいます。今後の目標については、こう語ってくれました。
「イエローリボンについて知られるようになっても、それぞれの地域で広まっていないと意味がありません。ですから、まずは自分の地域から、地域に特化して広報・啓発していくことが重要です。私たちの活動が地域のサクセスモデルとなればと思い努力しています。特に、まるこのような犬が苦手な犬がいることがあまり知られていません。『犬が嫌いな犬っているの?』と驚かれることもあります。そういったことを動画や絵本などを通じてご紹介していきたいとも考えています。
振り返るとイエローリボンのことを知ることができなかったら、私は心を病んでいたかもしれません。お散歩をしていても犬と出会ったら逃げないといけないし。犬を連れた飼い主さん同士が楽しそうにしゃべっているのを見掛けたりするととても孤独を感じました。そんな私と同じように孤独だったり大変な思いをしたりしている飼い主さんたちがきっとたくさんいると思います。どんな犬も安心して暮らせるようにイエローリボンを広めて、ヘルプマークやシルバーシートのように社会の目印になればいいなと思っています」
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