「働く保護者が幼い子どもを預ける場所」と思われがちな保育園。しかしこの就業している人「だけ」が利用できるという考え方が知らず知らずのうちに自分を追い詰めたり、相手を傷つけてしまうこともあるのです。Aさん(20代・専業主婦)から話を伺いました。
子どもを連れての再婚…理想と違う新生活
Aさんと旦那さんはお互いバツイチ同士で、双方の子どもの保育園で知り合いました。当時Aさんの子ども(以下次男)は生後3カ月。一方旦那さんの子ども(以下長男)は5歳。ひとり親として子どもを育てる姿にお互い惹かれあい、出会ってから1年程でAさんは再婚。再婚してから程なくして、2人の子どもである第3子(以下長女)を授かります。
出産のためAさんは現在の仕事を退職、子どもたちも保育園を退園することにしたそうです。家族5人になることをとても楽しみにしていたAさんでしたが、「現実は理想通りにはいかなくて」と話します。
長女を出産後、まだ2歳を過ぎたばかりの次男はイヤイヤ期に突入。長男は自分への愛情確認をするようにわざと怒られるようなことをしたり、反発することが増えていったのだといいます。
旦那さんに子どもたちのことを相談することはしなかったの?と尋ねると、「最初は相談してたんだけど、だんだんと仕事で疲れてるからと不機嫌そうな顔をされたり、暴言を言われたりするようになって。でも普段はいいパパだし、子どもたちもパパのこと好きだから」と話すAさん。一度行政に相談をしてみたら?と促されたことがあったものの、「一段落したら幼稚園を利用するから大丈夫」とAさんは少し疲れた顔で笑っていたそうです。
しかし、この「ワンオペ状態」の育児は長く続かなかったのです。
「幼稚園に預けられるまで」と家事・育児によりいっそう力を入れて奮闘していたAさん。しかし、1人で家事・育児・教育のすべてを行うことは難しく、また長男の件で学校に行くことも増え、どんどん疲弊していったといいます。家で炊事や洗濯を行うことも次第にできなくなってしまったそうですが、3人の子どもの育児は待ったなし。
この状態に気が付いてくれたのは旦那さんではなく、長女の乳幼児検診で出会った保健師さんでした。すっかりやつれてしまったAさんがぽつりぽつりと話す言葉をゆっくりと聞き出し、まずはAさんを休ませることから始めることにしたのです。
保育園への入園…しかしまわりの保護者に「通報」され
保健師さんのサポートを受け、まずはAさんの体や心への影響を考慮して、次男・長女の保育園への入園が決定。その後、長男の心のサポートのためスクールカウンセラーなどによる支援体制も整いました。Aさん自身「これでもう1人で頑張らなくてもいいんだ」と安堵したそうです。Aさんの場合、保育園は体や心の健康を取り戻すための入園なので無職で2人の子を預けていました。
しかし、それをよく思わないのが「保育園は両親共働きでしか利用できない」という考えの保護者の方々です。Aさんが専業主婦であることを知ると、行政に通報したのです。Aさんは「やっぱり自分は利用してはいけないんだ。ズルしてると思われたんだ」と悩み、保健師さんに泣きながら相談したといいます。
保健師さんからは「両親の就業は必ずしも必要なわけじゃないよ。いま、子どもの成長にとって保育園が必要だと判断された人から入所決定になるものだから気にする必要ない」と優しく言われたそうです。
その後も定期的に保健師さんが訪問してくれたそうで、Aさんは悩み事を話すことで少しずつ前を向いていくことができたといいます。
保育園の入所基準は就労だけではない
各自治体によって基準は異なりますが、保育園の入所基準は両親の就労だけではありません。体や心になんらかの疾病(例えばうつ病や身体障がいなど)があり、子どもを自宅で保育することが難しい場合は入所が可能になる場合があります。また家族の介護や保護者の就学・求職活動の他にも、配偶者からの虐待やDVなどを理由とした入所を受け付けている場合もあります。
かつてのAさんは、「私が不甲斐ないばかりに」と自分を責めていましたが、現在は心身ともに健康を取り戻しつつあり「子どもたちも友達ができて毎日楽しそうなの。私自身も会えない時間がある分、子どもたちの行動に対して心に余裕ができたのか、あまり苦しくなることもなくなってきたんだよね。旦那のこともいろいろわかってきたし、もう少し落ち着いてきたら今度は仕事を探すつもりなの」と明るい声で話してくれました。
Aさんが前を向いてたくましくなっていたことに私自身もうれしくなり、これからも応援してきたいと思いました。