人にも地球にも優しい「木のストロー」が国内外で高い評価を得ている。間伐材を使った世界初の試み。開発、商品化したのは、なぜか木造住宅メーカー「アキュラホーム」(東京都新宿区)でしかも、その中心人物は、なんと1人の女性広報担当だった。なぜ、そんなことになったのか。現在は同社SDGs推進室室長で「木のストロー」の著者、西口彩乃さんに現況や今後の可能性を聞いてみた。
こんなことになろうとは、だれが予想しただろうか。
ありそうでなかった木のストロー。環境への意識が高まる時代にフィットし、活躍の場はどんどん広がっている。開発に取り組み、商品化につなげた住宅メーカー「アキュラホーム」の西口彩乃さんがおっとりした口調で切り出した。
「特別な知識がなくても、力を合わせれば、ひとつのことができるんだというスタートアップの事例として何かの参考になれば、うれしいです。そして、1本のストローにまつわる物語を伝えて行ければ、と思っています」
木のストローの凄いところは不要とされる間伐材を利用することで森林保全はもとより、海洋プラスチック問題の解決につながる可能性があること。さらに製作、販売することで地域のシルバー人材や障害者に雇用をもたらし、その一方で教育の教材としてもいかせる点だ。一石二鳥どころか、17項目あるSDGs(持続可能な開発目標)のうち、実に12項目をクリアするという。
2019年には国から「SGDs未来都市」に指定されている横浜市と連携。横浜ベイシェラトンホテル&タワーズが木のストローを導入したことで持続可能な地産地消のモデルが確立された。その後、東北・北海道新幹線のグランクラス車内や成田空港の直営店などでも提供されるなど、その範囲は広がっている。
そんな木のストローが誕生するきっかけは2018年8月。知り合いの環境ジャーナリスト、竹田有里さんから掛かってきた1本の電話だった。竹田さんは西日本豪雨を取材。甚大な被害は森林管理にも問題があったのではないかと現地で聞き込んでいたという。
「間伐材で木のストローをつくれない?と持ちかけられて。えっ、ストロー?と思いつつ、相談されたのがうれしくて、できることはやろう、と思ったんですよ」
その後は試行錯誤の連続。社内では「うちはストローの会社ではない!」と猛反対された時期もあったそうで、このあたりは著書に詳しく書かれているが、西口さんを成功に導いたのは、だれかのために役に立とうとする気持ちと、おもしろがる精神。それと、おっとりした口調からにじみ出る人柄ではないだろうか。
「木のストローはだれもつくったことがなく、ノウハウはなし。大工さんに穴を開けてもらいましたが、長さが20~21センチもあり、無理でした。やがて、カンナで削ったような木を薄くスライスしたものを斜めに巻くことを思いつき、糊も口にしても大丈夫なものができました」
そんなとき、社会貢献を考えていたザ・キャピトルホテル東急の副支配人と意気投合。「完成したら採用したいと言ってくださって。監修し、一緒になって考えてくださった。これが一番大きかったですね。その後もドタバタは続くんですが」
2018年の12月に海外メディアも含めた記者発表。その反響は大きく、翌19年の「G20大阪サミット」における総ての会合で木のストローが採用され、世界から注目される。
「海洋プラスチックなどの問題を話し合う場でプラスチックのストローは使えないということだったのでしょうね」
2020年には栄えある「第29回地球環境大賞 農林水産大臣賞」を受賞。西口さんのチャレンジ精神はコロナ禍にもめげることなく「出版したら」の声を受け、ノンフィクション「木のストロー」を著した。
「コロナ前はいかに木のストローを普及させるかばかりを考えていましたが、いまは小中高、大学での授業や講義、講演で木のストローができたプロセスや人とのつながりなどを語らせてもらっています。そうすることで、SDGs達成に貢献できるのでは」
ちなみに、木のストローの価格は4本1300円。中には遊び心たっぷりな輪島塗で2本2万円というのもあるが、時代に求められているのは間違いない。奇跡のような物語は企業や分野の枠を超え、ますます進展して行きそうだ。
◇「木のストロー」(扶桑社、1540円、2020年10月16日発売)