エレベーターホールの天井裏にいた野良猫の親子
チャイくん(1歳・オス)は、2020年9月1日、とあるビルのエレベーターホールの天井裏からレスキューされた。そのビルの管理会社に「エレベーターホールから猫の鳴き声がする」と連絡があり、社員のAさんたちが駆け付けてみると、確かにガサガサという音がして、時折猫の鳴き声が聞こえたという。
猫たちは、建物の外の僅かなスペースから侵入したと思われたので、管理会社とテナントは、そのスペースの近くにえさと水を置いて様子を見ることにした。2日後、ビルのオーナーがエレベーターホールの天井を開けるため、業者の手配を依頼。天井を空けると4匹の子猫がいたという。そのうち1匹がチャイくんだった。
1匹ずつ救出すると、いつのまにか親猫が近くで見ていた。親猫は子猫を1匹だけ連れ去り、警戒して戻ってこなかった。管理会社のAさんとAさんの妻は、残りの3匹を病院へ連れて行った。その間に保護団体に連絡をしたが、保護は難しいと言われた。しかし、なんとか翌日預かってくれることになり、Aさんは会社に泊まりこんで子猫たちと一夜を過ごした。3匹のうち2匹は元気に動き回っていたが、チャイくんだけ、元気がなかった。ダンボールから出るための踏み台にもされていた。
母猫が連れ去った子猫は後に保護され、Aさんが里親になった。チャイくんにそっくりの女の子だという。
情けない顔をした、おとなしい子猫
埼玉県に住むMさんは、幼い時から猫が大好きだった。夫にもずっといつか猫を飼いたいと話していて、以前住んでいた広島から埼玉に転勤で引っ越す時、ペット可の賃貸に引っ越したのをきっかけに猫を迎えることにした。
2020年9月13日、譲渡会に参加。保護団体の人から、ネットでチャイくんを見て譲渡を希望していた人が別の猫を選んだという話を聞き、夫に「この子にする」と言った。
「情けない顔をしたおとなしい子で、他の子猫ちゃんたちが元気よく遊んだりご飯を食べたりしている中、トイレの端っこにちょこんと座っていたのが印象的だったんです。抱っこさせてもらうと小さくて温かくて、でも大きな声で必死に鳴いていて、言葉にできない感情に包まれたことを覚えています」
保護団体の人も、チャイくんを育ててくれたミルクボランティアも、「チャイくんよかったねー」ととても喜んでくれて、Mさんも嬉しくなった。マンションに住んでいたので、管理会社の許可取得や、猫を迎えるための準備のため、受け入れの日までミルクボランティアが預かることになった。
初めての家の探検を終えてぐっすり眠る
2020年9月22日、Mさんは一人でチャイくんを迎えに行った。車を持っていないので電車で行ったのだが、帰路、チャイくんが不安そうにずっと鳴き叫んでいた。Mさんは、「早く家に着かないと」、という気持ちでいっぱいになったという。
「家に着くと、もっと怖がると思っていたのですが、すぐにケージから出てきて探検を始めました。一部屋冒険が終わったところで疲れたのかケージの中で寝てしまったのですが、その姿を見てすごく安心したのを今でも覚えています」
チャイくんがあまりにも小さかったので、「いきなり抱っこしたら怖がるかな、好きにさせた方がいいかな」と、Mさんはとまどった。
「自分から私の腕の中に入ってくつろいだので、すごく感動しました。今日から家族なんだなあと、すごく嬉しくなりました」
仕事から帰ってきた夫も、スーツを脱ぐのも忘れて「可愛いね、小さいね」、とチャイくんと触れ合った。
名前は、チャイティーの優しくほんのり甘い印象がチャイくんにぴったりだったので、それまで呼ばれていた「チャイくん」のままにした。
甘えてきた時に感じる癒しの力
出会った時の印象とは違い、好奇心旺盛で入れるところがあれば入る、噛めるものがあれば噛む。家に来てから1カ月くらいは毎晩大運動会で、夫婦ともに毎日寝不足だった。年を重ねてだんだん落ち着いてきたが、いまも朝7時前には必ず起こしにきて、遊んでモードに入って廊下をダッシュしまくる、元気いっぱいのやんちゃ坊主だ。
甘えん坊でもあり、姿が見えなくなるとニャーニャー鳴いて不安気にすることが多い。仕事から帰ってくると必ずお出迎えしてくれて、「さびしかったよー」と、膝の上に30分以上乗ったままのことも多いという。
チャイくんを迎えて、以前は夫婦で仕事の話をすることが多かったが、「今日はチャイくんが…」とか「チャイくんによさそうなおやつがあった」など、チャイくんの話が多くなり、笑顔が増えた。夫婦でどこかに出かける時、猫用品の売り場に必ず行く。一番大きな変化は、朝起きてチャイくんが隣に寝ていた時や、帰宅するとチャイくんが出迎えてくれた時、「抱っこして~」と甘えてきた時に感じる癒しの力だという。
「猫がいるとこんなに幸せなのか、というくらい癒しをくれます。チャイくんのおかげで毎日幸せです」